安倍政権がもたらした消費税増税による自業自得的な経済急減速について(いわゆるリフレ派の見解まとめ)

 内閣府の発表によれば、国内総生産(GDP、季節調整値)の速報値は、実質で前期比1.7%減、年率換算で6.8%減であった。また、名目GDPの成長率は、前期比0.1%減(年率換算で0.4減)。

 内閣府のポイント解説を利用すると

「実質GDP成長率に対する内外需別の寄与度を見ると、民間最終消費支出や民間企業設備、民間住宅等の国内需要が▲2.8%とマイナスに寄与した一方、外需は、輸入が減少したことにより、1.1%とプラスに寄与した。内需のマイナス寄与は 7 四半期ぶり、外需のプラス寄与は 4 四半期ぶりとなった。」

 とある。もちろん輸入の低下は国内の景況の落込みを反映する可能性が大きい。国内需要をみても耐久消費財、住宅などを中心として消費税増税の「駆け込み需要の反動」という整理がされている。だがはたしてそうなのだろうか? この点については後半で簡単に私見を述べる(すでに昨年来指摘したものを繰り返すだけだが)。政府最終消費以外ほぼ国内需要が軒並み大幅減少の「危機」的な様相といっていい。各種報道のように、その落込みは東日本大震災以来の規模であり、また前回の消費税増税時の「反動減」を上回る。なお雇用者報酬の名目総額は増加したのは雇用状況の改善に結びついていると思う。もちろん実質値では低下しているという批判があるだろうが、これについては別な機会で反論する。

 ちなみに今日の内閣府の発表はあくまでも速報値であり、今後修正される可能性があることを指摘したい。いずれにせよ、アジア経済危機や金融危機のせいにしていた、いままでの97年の大幅経済失速が、消費税増税ショックによるものだったということははっきりしたのではないか。財務省はいままで97年の大幅な経済失速が消費税増税ではなく、その影響は軽微であり、むしろアジア経済危機によるものであると強弁してきた。そのような外的な要因は今回は皆無であり、まさに消費税増税のマイナスの影響がどれほど大きいのか裏付けることになったと思う。

 しかも重要なのは、アベノミクスの成果といわれた景気回復のけん引役であった民間消費が決定的なほど急減少したことにある。

 だが、政府及び財務省は、この落込みを「危機」とはみなさずに。次期(7-9月期)では大幅の上昇すると予想し、もって消費税の影響は過小である、と断定したいようだ。このような超楽観的なシナリオは正しいのだろうか?(いまのところフェアにみて増加はしても政府が現段階で期待する大幅増加は見込めないだろう。ただし政府のシナリオは今後手前勝手に都合よく修正される可能性があることを指摘したい)。

 まず毎日新聞の報道によるとこの発表をうけて政府首脳の反応は以下のようなものだった。

甘利明経済再生担当相は同日の記者会見で「1〜3月期と4〜6月期を平均すると昨年10〜12月期の水準を上回っている。駆け込み需要の反動は和らぎつつあり、緩やかな景気回復が進むと見込まれる」と説明。「必要と判断される場合は機動的に対応する」とも語った。

直接の談話記録はこちら
甘利大臣のこのような認識は当然に奇妙であり、批判を到底免れることはできない。以下にわたしの信頼する論者たちの発言を逐次紹介していく。

片岡剛士さんはtwitterで一連の甘利発言&安倍首相発言を批判。簡単に整理すると、「季節調整年率の数字があるのに、恣意的にいいとき(消費税増税前)とわるいとき(消費税増税後)の平均をとって、消費税の悪影響を恣意的に軽減するような発言をするのはおかしい」ということだと思う。

飯田泰之さんもtwitterで7-9月の速報値を見なくてはいけないという意見に賛成しながらも、7月の消費動向調査をみるとL字型に近い、さらにV字回復の可能性は低いのではないか、と指摘しています。

金子洋一議員(民主党)はtwitterで、1)消費の減少を増加に転じるには追加緩和が必要、公共事業増加での景気対策にはすでに供給面での制約が効いてしまい、単に資材価格・人件費増加で民間投資を低下させかねない、とも指摘。2)減税やガソリンの暫定税率分や軽油の相当部分を引き下げることを提案しています。

飯田さんも金子さんの提案に賛成で、さらに社会保障費負担の時限的引き下げを提案。そして片岡さん、飯田さん、金子さんそして後ででてくる安達誠司さん、高橋洋一さん、村上尚己さんらは消費税の10%引き上げの停止を主張しています。もちろん僕も同じです。

 安達誠司さんもtwitterで、消費がたとえリバウンドしても、外需や在庫調整の側面なども考えると、財務省・政府のもくろみのように7-9月期にv字型になる可能性は難しいだろうとしています。もちろん何度も念をおしますが、予測は確実ではありません。

 ただ金子さんがいまの消費の落込みを「構造的」なものととらえるのは重要な指摘です。ここでいう「構造」はいわゆる構造改革などの「構造」ではないでしょう。旧日銀の政策が転換して、リフレ的な政策レジームになった、それが消費税増税のためにその政策レジームが揺らいだ、消費税増税(=不況)レジームに転換していこうとしていると主張されたいのではないか、と思います。

すでに昨年、『日本経済は復活するか』の中で、片岡さんらと主張したことですが、消費税増税によってデフレ脱却にコミットしたリフレ・レジームが揺らいでいると指摘しました。それが今回はさらに鮮明になってきていると思います。雇用も物価もすべて消費などとくらべると遅れて反映されるものです。そこをぜひ注意しておくべきでしょう。

また政府、官僚、そしてそれらの御用系のエコノミストたちはこの落込みを「想定内」にしています。これは最近まで「想定外」の数字だったものを最近、急に修正して「想定内」にしたという、よく官僚が使う常套手段ですね。これを繰り返すとどんなことが起きても大抵は「想定内」になります。つまり何もしなくてもいいし、また責任をとらないための方便ともなります。この点に関しては高橋洋一さんが以下のように批判しています

4−6月期GDP。3ヶ月前まで、▲4%といって、増税大賛成と政府を押し続けてきたエコノミストが、1週間前に▲7%と見通しを修正して、▲6.8%がでて「想定内」という。それは国民生活に有害行為。略

さらに村上尚己さんが以下の論説をシノドスに寄稿しているのでぜひお読みください。
大型増税個人消費は落ち込む――総需要安定化政策を徹底すべき /
http://npx.me/17Nje/dLO4

大型緊縮財政政策採用で個人消費が大きく落ち込み、2014年度の経済成長率は低下する。ただ、金融緩和の景気刺激効果の下支えと海外経済の回復で、総需要の持続的な落ち込みは免れ、緩慢ながらも景気回復は続いているとみられる。

日本経済について、過度な悲観は不要だろう。ただ、脱デフレを実現する途上で稚拙に緊縮財政政策を採用し経済成長を止めることは、かなり危うい政策であることは間違いない。経済正常化と脱デフレを完遂するために、2%インフレ安定と完全雇用状況を実現するまで、景気刺激的な金融政策を続ける必要がある。そして、大型増税を含めた緊縮財政政策は先送りし、総需要安定化政策を徹底すべきである。

村上さんの提案に賛成します。というか上のすべての人たちの指摘に。

消費税増税ショックへの対策は、レジーム論も含めて以下の本をぜひお読みください。

日本経済は復活するか

日本経済は復活するか