八田達夫『電力システム改革をどう進めるか』

 八田先生の新刊のうち、そのごく一部分だが、原子力政策についての概要を以下にご紹介。

 本書には、簡単な原発コストの「真」の計算一例がある。ちなみに日本の政府系が試算している原発コストよりも、海外では(原発推進原発反対含めて)原発コストは比べようもなく高いことはよく知られている(参照:竹森俊平『国策民営の罠―原子力政策に秘められた戦い』)。

 八田先生もそうだが、岩田副総裁の『経済復興』や80年代に書かれた反原発政策論文も、この原発コストの「真」の算定が問題のキー。ただたんに「安全」(わざわざ「」つけしておいたことにも注意)のみを重視しているのではない。簡単に以下に、原発コストの部分だけ解説する。


 八田先生の議論Ⅰ)新設の原発には原発事故で生じる損害費用をカバーする保険への加入を義務づけるべきだ。Ⅱ)現状の事故コストを加算した原発の発電費用は下限値をみると8.4円(石炭、LNGと同程度で若干下回る、石油には大幅に下回る)だが、これは過小推計、Ⅲ)従来のコスト計算の漏れの指摘。

 八田先生が指摘する従来の原発コスト計算で抜けている部分(これは先に書いたように「追加」的コストに参入されることに注意)。(1)広域除染費用(従来の試算では除染土の処理費用などが除外)。従来のコスト等検証委員会の算定では広域除染費用は6兆円だが、除染土処理を含めると40兆に膨らむ。(2)電源立地交付金。従来のコスト等検証委員の試算では当該項目は含まれているが、そのときの想定範囲よりも実際には広域に及んでいる。(3)リスクプレミアムの評価のぶれ。以上の項目から、原発コストは火力よりも高い可能性がある。さて多くの人はここで火力と原発の追加コスト比較だけで終わるだろう。ここからが重要。追加的なコストを考えると、原発も(あるいは原発をやめて火力にしても)いままでよりも高い電力価格は不可避。しかしその高コストを低める効率化の努力が始まる。リスクを過度に将来世代に先送りすることもない。ちなみに八田先生の本では、使用済み燃料の処理費用や、政治経済的な側面(日本の足元をみて燃料カルテルをしかけてくる勢力の存在など)についても簡単に考察されている。もちろん電力システム全体で、原発問題は核にはなるが、あくまでその一部だ。原書にあたって読んでほしい。

電力システム改革をどう進めるか

電力システム改革をどう進めるか