片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』

 アベノミクス本三本の矢(本書、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』、高橋洋一アベノミクスで日本経済大躍進がやってくる』)の二冊目。若田部さんの本がわりとコンパクトにまとめてある入門編とすれば、片岡さんのは新書にもかかわらず重厚な本格的アベノミクス検証本になっている。

 すでに山形浩生さんの絶賛書評がでているので基本的な内容はそちらを読んでいただきたい。僕の評価も同じで、片岡さんの進化する時論がよくわかる一冊だ。片岡さんの経済問題を論じるときの観点は、本書では三×三のフレームワークとして示されている。

 3つの政策手段ー3つの時点ー3つのステージだ。最初の3つは、景気安定、成長、再分配、二番目は過去、現在、未来だ。これは過去はフロー市場への注目、未来はストック市場への注目として把握される。最後は、経済情勢の把握、政策の実行、効果である。

 これをひとつの図表にまとめると以下である。

 この3×3のフレームワークで政策の失敗をとらえると、90年代から最近までの政策の失敗が、自己実現的なサイクルを伴うことも本書では明らかにされている。詳細は本書を参照にすべきだ。

 この自己実現的な悪循環をやめるためには、好循環を生み出す必要がある、と本書は指摘します。詳細は省きますが、その核心は「統一的な戦略策定部門」の必要性です。アベノミクスはその点でさまざまなリスクに直面しています(特に財務省財政再建路線=消費税増税路線の存在など)。またアベノミクスの三本の矢が実は現状では「ひとつの矢」=リフレ政策にすぎないことも喝破されています。

 望ましい政策の成功を3×3のフレームワークで整理すると以下のように概念化されています。

 さらに本書では5年後、10年後の名目GDP成長率目標の導入が財政再建と経済成長の安定化両面から主張されています。これには私も賛成します。インフレ目標政策をさらに超えて、この段階まで踏み込んだ議論をするべきだと思っています。

 本書はまたTPPや電力問題、消費税の影響などを具体的な数値をもって実証的に議論していて、読者は大いに役立つでしょう。これほどのバランスのとれた時論の書はなかなか他では読めないと思います。ぜひ一読、いや再三ひも解いてほしい傑作です。