萱野稔人編著『ベーシックインカムは究極の社会保障か』

 この本の題名への答えは正直ノーである。ベーシックインカムについては僕の周りでも賛成者が多く、本書に収録されている飯田泰之さんはその代表であろう。だが、僕は以前からベーシックインカムについては違和感を表明してきた。本書ではその「違和感」を一部裏付けるような論者たちの主張が収録されていて非常に参考になった。本書の編者は菅野稔人氏であるが、率直にいって経済学的な視点でも社会政策的な視点でもあまり僕は信用していない。

 そのため、ここでは、飯田泰之さんの主張を中心にして本書を読むことをまずすすめたい。さらに飯田論説(ベーシックインカム賛成論)に対して、ベーシックインカム論に従来の社会政策的な観点を全面に出して反論している後藤道夫氏の論説、さらに思想的な面で興味深い東浩紀氏、そして異能な視点ともいうべき佐々木隆治氏の論説も面白い。冒頭の坂倉昇平氏ベーシックインカムをめぐる盛り上がりの歴史は日本のネット中心のものであり、その狭量な視点が逆説的にいままでにないまとめになっている。

 ただし編集でいくつか疑問がある。まず問答体になっているところで、書体の違いがわかりずらく、行をあけてもいないので、どこからが対話相手で、どこからがその章の話者なのかわからないことだ。非常によみずらい。また表紙には編者の他に著者の名前があるのだが、なぜか全員ではない。これも気になった。また節の題目のつけかたも「なぜそこ?」という箇所がかなりあった。これも読みにくさに貢献している。

ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット

ベーシックインカムは究極の社会保障か: 「競争」と「平等」のセーフティネット