10年くらい前に『週刊東洋経済』に寄稿した書評。要するにウォルフレンも「反ブッシュイズム」に囚われてるよね、という批判。
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ブッシュ個人やブッシュ政権への批判としてはいくつかの定型化されたパターンがある。例えば、ノーム・チョムスキー、アンドリュー・デウィットと金子勝らの著作、そして本書などは共通した特徴をもっている。ブッシュの個人的な愚かさが大統領としての資格にふさわしくないという指摘、ブッシュのブレーンたちが強力なプロバガンダを行い、あたかも全体主義国家のような報道管制をひいていること、「テロとの戦争」は終りのない戦争であり、勝利がありえない無謀な試みであること、ブッシュ政権によって大企業の政治的・経済的支配が拡大したこと、アメリカがヨーロッパなどの同盟諸国との安定した関係を破壊したこと、さらに市場中心主義的な考えが公共的な空間を侵食してしまったこと、などである。
これらの指摘はきちんとした事実の裏づけを伴うものもあるだろうが、その一方でブッシュ政権に対抗する“反ブッシュイズム”とでも形容される政治的プロバガンダという側面もある。ウォルフレンはブッシュ政権のプロバガンダが「マニ教的二元論」とでもいうべき善と悪の単純化された図式を採用しているとしているが、本書の反ブッシュの主張もこの二元論的な対立図式と無縁ではない。それだけウォルフレンのブッシュ政権への批判は単刀直入で苛烈なものである。
「どこかおかしいと感じているアメリカ人は大勢いるだろうが、正確にどこがおかしいのかを指摘できる者はほとんどいない」と著者は書いている。まさに時代的な雰囲気を表現するのにこれほど的確な言葉はないであろう。日本でも「構造改革」のなにが「構造」なのか誰もわからないまま「抵抗勢力」か否かの二元論的な構図が流布している。本書を読むものは、ブッシュ政権の性格と日本の政治状況の暗黙の共鳴に驚くことであろう。
- 作者: カレル・ヴァン・ウォルフレン,藤井清美
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2003/06/24
- メディア: 単行本
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