山本幸三衆議院議員の提言―復興増税がなぜ駄目なのか!―


 山本幸三さんから野田政権の増税路線反対の提言を頂戴した。私は郵送でいただいたのだが、知人がメール形式をいただいたのでそれをそのまま以下に流用する。

 復興増税がなぜ駄目なのか!
(アピールNo7)
                         2011.9.15
                        衆議院議員  山本幸三
1 東日本大震災からすでに半年が経過したが、事態は一向に改善していない。この半年の間に、私が提唱した「20兆円規模の日銀国債引き受けで復旧・復興を」図っていれば、今頃はどの被災地も未来に希望を見出して前向きに歩み出していただろうが、現民主党政権はそのチャンスをみすみす見逃してしまった。被災地の復興にとっては、致命的な遅れにつながった可能性が強く、誠に残念なことである。
さて、9月2日に発足した野田新内閣の布陣を見ると、完全な増税シフトを敷いたようにみえる。経済政策については素人ばかりで、何を言うにも財務省が用意した答弁資料に頼らざるを得ないだろうが、国会対策には長けているので、財務省増税路線を進めるには最適だという訳だ。
  しかし、復興のための増税は日本経済を墜落させ、雇用を奪い、企業を海外に追いやり、かえって税収は落ち込んでしまうという馬鹿げた政策である増税を実現すれば評価されるという財務官僚の虚栄心は満足させるかもしれないが、国は滅び、国民は疲弊するだけだ。正に「国破れて、財務官僚あり」という状況に追い込まれるだけである。
  なぜ復興増税が駄目かといえば、第一に課税自体が社会的厚生の損失をもたらす面があるということ、第二に日本経済全体にマイナスの影響を与えることが確実だからである。この点について、理論的、実証的な説明を試みてみたい。そして最後に、では増税以外のどのような財源策が望ましいのかについても言及してみることしたい。


2 税というものは余程の工夫をしないかぎり、資源配分に歪みを与えることがよく知られている。課税によって人々の労働意欲や貯蓄行動あるいは消費者や生産者の行動が大きな影響を受けるからである。その歪みによって発生する負担のことを税の超過負担あるいは社会的厚生の損失という。  まず図1(次ページ)を見て欲しい。所得比例の所得税を課したとき、均衡点は点Eから点E’にシフトする。ここで政府が家計に対して、課税前の効用を回復させるためには、どれだけのお金を家計に一括して戻す必要があるかという問題を考える。その額は、課税後の予算線と同じ傾きを持ち、課税前の無差別曲線に接する直線を描いて、その直線と課税後の予算線との垂直距離(線分BE’)で示すことができる。ところが、政府は家計から税収をCE’しか得ていないので、BCだけお金が不足する。つまり、政府は課税することによって、人々の所得水準を課税分だけでなくBCだけ追加的に引き下げてしまうのである。このBCがこの所得税のもたらす超過負担ないしは社会的厚生の損失ということになる。  


  次に間接税の個別消費税のケースを考えてみる。便宜上、従量税を想定して説明するが、従価税の場合でも同様に成り立つ。いま、図2のように、ある財の需要曲線DDと供給曲線SSが示され、課税される前には、需要と供給は点Eで均衡し価格はOCとなっている。ここで消費税t(=EJ)が課せられると、供給曲線がtだけ上に平行移動しS'S’となる。すると新たな均衡点はE’にシフトし、価格はOBに上昇し、需要量も減少する。ここで超過負担を考えるとき、消費者余剰、生産者余剰という概念が必要となる。  
消費者余剰だが、消費者が課税前に支払ってもよいと考えた代金を順々に足し上げていくと台形OAELの面積になるが、実際に支払った代金は長方形OCELの面積だけだから、彼は△ACEの面積だけ得をしたことになり、これを消費者余剰という。他方生産者は、売りたいと考えた代金を積み上げると台形OHELの面積であるのに、実際に得た売り上げは長方形OCELの面積だから、彼は△HCEの面積だけ得をしたことになり、これを生産者余剰というのである。これら消費者余剰と生産者余剰を合わせたものを総余剰といい、これがこの財の市場における取引によって発生する社会的厚生の大きさを示していることになる。
  さてtの課税後はどうなるか。まず課税後の消費者余剰は△ABE’になり、課税前に比べ台形BCEE’の面積だけ減少している。消費者の支払った税負担は長方形BCIE’の面積だから、消費者は△EIE’の面積だけ税以外の負担を強いられたことになり、これが消費者サイドで発生した超過負担である。一方、生産者余剰は△HCEから△HFJへと変化し台形CFJEだけ減少している。生産者の支払った税負担は長方形CFJIの面積だから、生産者も△IJEの面積だけ税以外の負担を強いられていることになり、これが生産者サイドで発生した超過負担である。社会全体としては、両者を足した△EJE’の面積だけの超過負担すなわち社会的厚生の損失が生じているということになる。

  これ以上の詳しい説明は省略するが、この超過負担、社会的厚生の損失は数式で表わすと、それは需要や供給の価格弾力性に比例するとともに、税率の2乗に比例することが分かる。とくに後者の税率の2乗に比例するということは重大で、税率の引き上げは常に慎重でなければならないことを意味している。復興だからといって、短期間の内に一気に税率を上げて財源を賄いましょうというのが言語道断であるということが、このことからも明らかであろう。


3 増税がマクロの日本経済に与える影響については、どのような計量モデルを使うかによって結果が大きく違ってくる。鳩山政権のとき、当時の政権幹部が内閣府から見せられた消費税増税の試算をみて衝撃を受けたと新聞報道されたが、その資料を出せと要求しても決して出そうとしない。都合の悪いことは隠したいのだろう。しかし、すでに公表済みの試算を見てもかなりのことが分かる。内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル法人税、個人所得税、消費税を5年間継続的に増税した場合の試算を示しているのである。それによると、法人税、個人所得税をそれぞれ名目GDPの1%相当継続的に増税した場合は、実質GDPも名目GDPもマイナスで推移する。ところで奇妙なのは、消費税率を2%ポイント継続的に引き上げた場合は、実質GDPはマイナスだが、名目GDPはプラスで推移するというのである。まあ、毎年税率分だけ物の値段が上がっていくのだから消費者物価もGDPデフレーターもプラスになるということなのだろうが、そんなに上手くいくのだろうか。消費者の財布の紐はより締まっていくのではないか。とくにデフレが継続している現状の日本経済で消費税増税で名目GDPが上昇し、税収が上がるとは到底信じられないのだが。1997年の橋本内閣の下で、デフレの兆候が現れ始めたときに強行した社会負担増と消費税増税で一気に不況の引き金を引いたことを忘れてはならない。その年の秋にアジア経済危機が起こったことから、不況はそのためだという説明がされることがあるが、実はそれは財務官僚が考え出した言い訳に過ぎない。1997年以降、増税しても税収は97年のレベルを超えることはないのである。
  内閣府の試算は、消費税を何とか導入したいという財務省の意向を受けてバイヤスがかかった数字である可能性が高いが、民間の試算はもっとシビアである。例えば、バランスの取れた分かり易い解説で有名なロバート・フェルドマン氏(モルガン・スタンレーMUFG証券経済部長)の試算によれば、消費税を2012年から7%に上げ、復興歳出総額は10兆円程度、日銀はお金を刷らないというケースでみると、初年度2%程度のマイナス成長、翌年以降もマイナス成長が続く。さらには現在30兆円程度あるデフレギャップが深刻化する。デフレは現在の1%マイナスから3%マイナス程度に進む。当然プライマリーバランスも悪化する。私には、こちらの試算の方が内閣府のモデルより余程信憑性があるように思えるのだが、いかがであろうか。
  いずれにしても、デフレで名目GDPが落ちているかぎり、増税しても税収は増えないことだけは確かだろう。したがって、まず第一に考えるべきは、増税よりも「デフレ脱却」だろう。この点、日銀が全く積極的に動こうとせず、政府もそれを見逃がしている姿は犯罪的ですらある。

4 以上のように、税それ自体の問題点からも、あるいは税がマクロ経済全体に与える悪影響からも現状の日本経済の下で復興増税を容認することは到底ありえない。では、それに代わって15〜20兆円程度に達するという復興財源を賄うにはどうしたらよいのだろうか。
  一番よいのは、私がかねてから主張してきたところの「日銀引受け(あるいは買い切りオペ)による国債発行」である。まずデフレ脱却と超円高対策に資する。市場の国債吸収能力に悪影響を及ぼさない。そして、税がもたらす社会的厚生の損失が一切発生しないし、国民負担も生じない。名目GDPの増大も期待できる。  なぜこんな一挙三両得のような政策を採用しないのだろうか。日銀や財務省の行益、省益に反するからである。この政策について彼らが挙げる、ハイパーインフレになるとか、金利が暴騰するなどという批判は全く説得力がない。彼等は、これまで金融政策ではデフレは解消できないと言ってきたのではないのか。それが国債日銀引受けや買い切りオペということになると急に金融政策は効き過ぎてハイパーインフレになると言い出すのは、支離滅裂ではないか。もっと首尾一貫した論理を展開すべきだ。また、金利が暴騰するというのも何の根拠もない、脅しに過ぎない。経済というものは、最後は需要と供給で決まってくるものだ。日銀という国債の買い手がちゃんといるのに、国債が売れなくなって生ずる異常な金利上昇が起こるはずがないではないか。もっと経済理論的に説得力ある議論を展開して欲しいものである。
  いよいよ3次補正予算の議論が始まり、復興財源の話も大詰めの段階に入ってきた。野田政権は、財務省の言いなりだから増税が既定路線のようだが、このような暴挙は決して許してはならない。私は、すでに復興債の特例法案が出てきた場合に、「政府は、日銀に復興債の買い切りを要請できる。日銀は、原則それに応じなければならない。」との趣旨の議員立法を用意している。まず自民党内で、そして他党の「増税によらない復興財源を求める会」のメンバーに働きかけて、何としても増税を阻止する覚悟である。多くの同志の決起を求めたいものである。                               (以上)  

日銀につぶされた日本経済

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