Twitterに書いたことをほぼそのまま掲載。
日本の電力問題(原発問題含む)をもっとも入門レベルで解説しているのが、八田達夫先生の「ミクロ経済学?」(東洋経済新報社)。そこでは送電と発電の分離、電力自由化の効用などが独占理論の枠組みで解説されている。これはぜひ読んだ方がいいと思う。簡単だし。
その八田先生の『週刊東洋経済』での議論はこの入門レベルの上にたって今日の東京電力問題についてスタンダードな批判と問題提起をしたものと思う。日本の原発政策の最大の問題は文民統制の失敗ということだと指摘している。
ちょっと引用。「日本の原子力政策を策定する原子力委員会(内閣府に設置)のトップは、原子力工学の大物教授であり、同門出身者が電力各社、設備会社、経済産業省の原子力事業や政策を担う。つまり、中立を装っているが、陸軍大学の教授に戦争の最終決定を委ねているようなものだ」
すごいきつい表現で、間接的だがずばり名指し批判だ。八田先生にしては空前絶後の過激な批判だろう。原子力委員会のトップが誰かぐぐればすぐわかる。
八田先生はさらに電力各社の集票力が政治との癒着をもたらし、官僚とも天下りで癒着を指摘。これは先生の例ではないが、さらに東電の会長がマスコミ各社と旅行にいっていたことからもあきらかなように大手メディアともねごろだ。
八田先生はさらに電力各社の集票力が政治との癒着をもたらし、官僚とも天下りで癒着を指摘。これは先生の例ではないが、さらに東電の会長がマスコミ各社と旅行にいっていたことからもあきらかなように大手メディアともねごろだ。
八田先生はこう警告する。「残念なのは、有名な報道番組に多数の広告宣伝費を出すなどして、大手メディアを懐柔し、メディア側も原子力委員会のいうことを鵜呑みにしてきたことだ。その広告宣伝費は規制料金によって国民が負担している。その広告宣伝費は規制料金によって国民が負担している。規制業種に対して、既得権益を守るための無制限な広告宣伝を許していること自体、問題だ」とする。これは経済学のスタンダードな広告への見解(広告は効率性を増す手段)とは異なる。むしろガルブレイス的な視点かもしれない。
河野太郎議員がブログでずっと主張しているように、この八田先生の論文でも、計画停電には反対だ。大口需要者と東電は「需給調整契約」を結んでいるのにそれを行使せず、インフレや家庭の生活に重大な悪影響を与えている、と批判する
これは八田論文を踏まえればこういうことだろう。つまり東電が大口需要者との「需給調整契約」を行使すれば、その供給力不足を大口需要者は別の事業者から調達するだろう。それが東電には許容できない。それが僕が八田論文から思う今回の計画停電の真相になる。
これは八田論文に書かれているように、東電などは、震災以後も、新規参入した事業者たちに、新たな送電の「託送供給」契約を認めていないという指摘からも、この計画停電が東電の過剰な営利追求の裏返しであることを傍証する。
またこれはすごく勉強になったが、しばしばネットでもマスコミでも話題になるが、東電はいまの電力不足をほかの電力会社からうけるべきである、という主張があるが、八田先生はそれは額面通りにとるべきではないと忠告していると読める。なぜなら日本卸電力取引所というPPS(東電以外の特定規模事業者)が需要者と契約する市場がストップ(現時点はどうか田中未チェック)している。これを先ほどの理由により計画停電をやめて再開すべきだという。しかもこのときには東電が他の電力会社からうけている排他的な電気の融通はやめるべき
しばしばなぜか家計に税金を多額にかけて復興資金に回す、という議論と並行して、なぜか家計に電力使用のピークロード料金制を課すべきだという意見が、政府系の御用学やエコノミストからでて、僕も驚いたが、八田論文では、家計ではなく、大口需要者に税と補助金でピーク時の電力調整を誘導せよという
いまの現状では、大口需要者が当日、いくらでも電気需要を追加し、それに独占的に送電・発電を支配している東電が追従する形になる。これはそもそも東電の独占体制を維持するためのシステムだ。八田先生は『ミクロ経済学?』でも主張しているように送電網を解放し、電力自由化をはかるべきといおう
現在の計画停電、そして夏の総量規制すらも、この東電の独占体制を維持するために利用されている(される)可能性がある。そのため早急に送電網を利用者が自由に使えるようにすべきだという。送電と発電の分離も重要だ。
八田論文はまた福島原発については、即時に東電かわ切り離し、政府の管理下におくべきだという。これは海外からも同様の主張をされている。しかし「いまは組織論の余裕はない」と政府側はあしらっているが、この種のやりくちは戦争中のまさに軍隊の便法そのものだ。
いま僕の書いた以外にも八田論文はプルサーマルや、八田先生の過去の経産省とのやりとりについても書いているが、それは僕はふれていない。ネットもいいけど、やはりちゃんと読んでおきたすぐれた提言だ。
ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)
- 作者: 八田達夫
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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