シノドス・リーディングス『日本思想という病』

 発売中です。「ニッポンの意識ー反復する経済思想」を掲載してあります。この講演で一番自分として見通しをつけた問題は、以前、東京河上会で、原田泰さん、岩田正美氏、橋本健二氏らを招いて行った河上肇の『貧乏物語』のシンポを行ったことがありました。以下のそのときの記録があります。

http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20070616#p4

 このときまだ十分に『貧乏物語』を日本の経済思想の中で位置付けることが十分にできていませんでした。今回の本の中では今日の貧困問題との関連も含めて具体的な解釈を提示したと思っています。日本の貧困に関する経済思想の流れに興味を抱く方はぜひご感想をいただければ幸いです。

日本思想という病(SYNODOS READINGS)

日本思想という病(SYNODOS READINGS)

河上肇の『貧乏物語』解釈要旨

 『貧乏物語』(1916/大正5)‥‥都市部の中の労働者たちの貧困(ワーキングプア)が課題。河上のワーキングプア論の特徴は、ワーキングプアの発生を、生産のミスマッチ(非効率性)に求めていること。彼の社会政策論が徹頭徹尾、生産論的社会政策であることの証拠。生産の非効率性の原因は、現代の「遊手」ともいえる奢侈ぜいたく品の生産・消費にある。

「これは要するに、今日生活の必需品が十分に生産されて来ぬのは、天下の生産力が奢侈ぜいたく品の産出のために奪い去られつつあるがためである。多数貧民の需要に供すべき生活の必需品は、少し余分に造ると、じきに相場が下がってもうけが減るから、事業家はわざとその生産力をおさえているのである。しかして余の見るところによれば、これが今日文明諸国において多数の人々の貧乏に苦しみつつある経済組織上の主要原因である」(『貧乏物語』岩波文庫版87頁)

 ワーキングプアの対処法は、経済組織の改変→富者の贅沢廃止→奢侈ぜいたく品の生産廃止、必需品の増産、という生産のミスマッチの解消であって、所得の再分配ではない。