中村一樹編著『60日で取れるとっておきのお得な資格』

 少し前に御本頂戴していました。お礼が遅れて申し訳ございません。どうもありがとうございます。

 本書は題名が示すように、60日で取れる資格をいくつも掲載し、その資格の特徴、学習するときの教材、そして実際の勉強の進度などを簡潔に書いたものである。

 ところで僕は大学生の就職における資格については懐疑的な立場にたっている。もちろん全面否定ではなく、それぞれの学生が自主的にやれるならばそれにこしたことがないと思っている。他方で多くの無名大学では資格取得を学生に奨励しているのが、どの大学のHPでも観察することが可能である。しかし拙著で言及したように、むしろ採用側は、資格そのものよりも「コミュニケーション能力」を重視している。そのため前者に努力を傾注しぎる就職指導や就職対策は思わぬ落とし穴に陥るリスクが少なからず存在すると思う。

 ただ僕も97年のアジア経済危機から02年ぐらいまでのゼミ生すべてに受験させ、実際にほぼ100%の学生がとった資格がある。人数にするとおそらく一〇〇人は軽く超えていたはずだ。それはかってMOUSといわれ、いまは本書の72頁にあるMCAS(マイクロソフト認定アプリケーションスペシャリスト)のエクセルの試験である。

 このエクセルの試験についての指導はこうだった。専門ゼミの最初の二ヶ月間を本書でも採用されているエクセルの教科書をもとに、演習形式で学生にコンピューター教室でその場で学んでもらう。テキストはCD-ROMがついているので実に効率的に学生が取り組めるようになっている。僕はもっぱら学生への注意力の喚起や簡単なアドバイスである。テキストのせいもあるがほとんどの学生が教科書をひと月もあればこなせるだろう。この段階で、その教室から(自宅でやらせてはだめ=やらないから)試験の申し込みを行ってもらう。学生の方も金額が1万円を超えるので真剣そのものだ。

 あとは試験の日まで今度は教科書に対応した問題集に取り組む。学生も慣れてきたのか早い学生はほぼゼミの時間だけで、教科書と問題集あわせて二月、個人差があってもゼミ回数でいえば8回前後でこなせるはずである。もちろんその間、専門的演習がおろそかになるといってしまえばそうだが、当時の僕はこのエクセルの試験勉強をゼミの冒頭で行い、全員に資格をとらせることが、学生たちの基礎勉強にもなり、さらに就職でも一定程度役立つと思っていたのである(ちなみにその期間のゼミ生の就職率は、氷河期にかかわらずほぼ100%だった。しかしそれは学生の努力であってこの資格が効果をあげたかどうかはわからない。面接でも聞かれた学生は少数だったのでたぶん効果はきわめて限定的だろう)。

 いまはどうだろうか? もちろんそういうやり方も可能だろうが、いまはむしろ企業研究、学生への個別のパソコンの横に座ってマンツーマンでの就職指導、基礎的な国語能力などの教示の方がさらに有効であり、かぎられた時間の中でできることでは優先すると自分では思っている。

 とはいえ、上記のエクセルの試験もまた学生の基礎学力の向上に多少は貢献してくれるだろう。はなから否定するものでもない。要は優先順位だと思う。いまは留学生もかなり増えたので別種の努力をしなくてはいけなく、その点ではまだまだ試行錯誤なのだ。ちなみにエクセル自体は資格試験合格という目的にわりふるのではなく、いまでもゼミの最初に縄田和満氏のエクセルを用いた統計学の入門書を演習形式でやっているのでそれが事実上の代替を果たしていることも書いておきたい。

60日で取れるとっておきのお得な資格 (洋泉社BIZ)

60日で取れるとっておきのお得な資格 (洋泉社BIZ)