鈴木淑夫『日本の経済針路』、民主党の政策のバイブル?

 民主党の経済政策について論説を書くために購入。利上げ派の家元の書。

 さすがに白川日本銀行総裁を「孫弟子」というだけあり日本銀行が過去と現在にもっていたすべての「日本銀行思想」をフル回転させている。いわく良いデフレとか「強い円」だとか、最近では「輸出構造論」とか。

「〇一〜〇八年の小泉・安部・福田政権の下で、日本国民の生活は、超低金利による預貯金の目減り、円安による輸入品の値上がりと海外旅行費用の上昇、〇七〜〇八年の生活物資の値上がりによる実質所得、実質賃金の下落、雇用不安という四重苦を味わってきた。国民生活にとっては、低金利より高金利が有利、円安より円高が有利、インフレよりデフレが有利、雇用の不安より安定が有利である」

 さて鈴木氏も「闇雲に金利を引き上げ」ることはしないと注意書きしている。鈴木氏はこういう。

 「(1)超低金利を、預貯金が目減りしない正常な水準に引き上げ、(2)名目円レートの円高(実質実効レートの安定)を許容し、(3)国内物価が安定する、という三つの条件の下で、不況にならない日本経済をどうやって作るか、ということである」という。

 さらに「財政緊縮、超低金利」から「財政中立、正常金利」にポリシーミックスを転換することが生活重視の政策らしい。いずれにせよ、どうも「正常金利」つまり「預貯金が目減りしない正常な水準」が政策のひとつのキーである。では「預貯金が目減りしない正常な水準」とはどのくらいの水準なのか? 二三ページに例示されているが、消費者物価上昇率(前年比)と同じである。例えば鈴木氏は〇八年の消費者物価上昇率と3年物定期預金残高の平均利率の差に注目して、1.17%の純金融資産が消失した可能性を指摘している。ところで鈴木氏は上に自ら述べているようにデフレの方がいいといっていたので、もし仮にマイナス1%のデフレが続けば、この鈴木氏の論法では、超低金利でも純金融資産は増加することになるだろう。その意味でも鈴木氏にとっては「良いデフレ」なのかもしれないが。この差額理論によれば、物価が0%で「安定」していれば、金利も〇%で「安定」していてもいいのだが、0%だと短期金融市場の機能がマヒするので0%よりも高めがいいようである。デフレがいいといっているので、デフレのまま、金利が0%よりも高く「安定」していることがベストなのだろう。もちろん差額理論では、このときデフレが深刻で金利が高いほど純金融資産は増加する(としか鈴木氏の本を読むと思えない)。そのとき円高が「安定」し、不況にならない経済が実現されているらしい。

 現状の日本経済は鈴木氏からみるとこの(1)から(3)までの条件をみたす「安定」への調整過程ともみなしていいのではないか? 不況ではなく日本の経済体質を変える「調整」なのである。名目円レートは円高傾向、国内物価はデフレ傾向である。雇用は日本最悪の5.5%で政府は安定すると思っているようだし。さらには市場関係者の多くは今年度後半には金利の「正常化」が起きると信じているむきも多い。

 こう考えてくると民主党日本銀行総裁人事で反対し続け、結局は「孫弟子」白川氏を選ぶことになったのは、当時からよく練られた政治的針路(笑)とでもいいたくなってくる。僕はこの鈴木氏の提示する針路は日本経済の大災疫になるだろうと思う。その根拠はいままで何十回もこのブログでも自分の著作にも書いてきたのでリンクをするのも面倒なので省略する。もちろん僕はその他大勢の経済学者・エコノミストの主張を大差ない。例えば浜田宏一岩田規久男各先生の論説を読まれた方がずっといい。だが、いまの民主党には、鈴木氏がここで書いた政策に類似した環境が「失われた10年」をもたらしたり、昭和恐慌を招いたといっても聞く耳はないだろう。国民はいまよりも一段と深い経済的災疫が起きる可能性を真剣に考えるときが近いように思える(もっともこんないさましい??政策を本当に臆することなく民主党日本銀行が協調してやればだが)。

日本の経済針路―新政権は何をなすべきか

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