ワシーリー・モロジャコフ『後藤新平と日露関係史』

 藤原書店の藤原社主からご恵贈いただきました。ありがとうございます。

 僕は専門がずれるので十分に評価できないけれども、ひょっとしたら日本の外交史や日本政治史の研究の中でも画期的な貢献じゃないだろうか? 後藤新平というとちょっと前まで僕には主に関東大震災以降の復興院による首都再建計画とそれをめぐる経済学者、マルクス主義者たちの論争の標的という認識でしかなかった。それでも一海知義先生が現代語註を加えた鶴見祐輔の『後藤新平』を途中まで読んだことでそのような狭いイメージは覆り、日本の近代化を推し進めた最重要なキーパーソンになっていた。それが今回のこの本で、ロシアとの外交関係において重要な位置をしめていて、後藤の提言や活動がまわりの無理解でとん挫したことが、今日まで至るロシアとの関係がこじれた遠因になっていることがよくわかる。しかしこれは佐藤優の本読むよりはこれを読んだ方が数万倍いいと思うよ。

 後藤のロシアに対する態度は日露戦争、ロシア出兵、その前後、などそのときそのときの政治的な与件を前提にして、さまざまに変化するプラグマテックなものであるけれども、それは満州経営を前提にした上でのロシアや欧米諸国との勢力均衡に基づく思想だった。ところで本書ではほとんど触れていないのだが、やはり僕は石橋湛山の植民地論=経済の論理で考えてしまうので、そのような経済的な論理からこのような後藤の植民地経営論、外交論はどう評価されるのか、それは面白い課題だと思う。

 

後藤新平と日露関係史

後藤新平と日露関係史