飯田泰之ブログhttp://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20090201
すると格差と雇用の問題への対応には3つの選択肢しかないことがわかる.
(1)だれからも奪わないしだれも救わない(2)だれかから奪ってだれかを救う
そして,
(3)経済成長
僕が常々残念だと思っているのは,低所得者層の生活保障の必要性を感じている論者の多くが(3)の選択肢に冷淡なところです.それどころか経済成長が現在の低所得者層の苦しい生活の原因だなんて思っている人までいる.経済成長と相対的な格差の関係については議論が残りますが*4,絶対的な貧困への唯一にして最善の処方箋は経済成長なのです.
にもかかわらず,貧困・格差論の人は(3)を推さない.
この貧困・格差論の人たちの(3)への軽視ないし無視は、一昨年に、東京河上会で、岩田正美氏や橋本健二氏らとのフォーラムをやったときに、彼女・彼らの発言から骨身に染みて感じたこと。それでそのときの怒り(笑)がふつふつと間歇泉のごとく吹き出ちゃたのが以下の『不謹慎な経済学』の記述。もう少しうまく書けばよかったとは思うが。
また肝心の「経済格差」の中味についても相当に議論は煮詰まってきている。「経済格差」は若い世代(特に現在20代真ん中から30代初めの人たち)にとっては不況が原因となる新卒市場での就職難が原因していること、中高年の失業についてもそれは不況を反映したリストラを起因としていること、などまさに不況の長期化がもたらしたものといえる。そのため対策としては、まずは全体的な失業率の改善が求められる。確かに一時期の最悪期を日本は脱していて、現在の完全失業率は4%である。しかしいくつもの研究が、景気が本格的に回復すればこの失業率4%のうち1%以上が消滅するであろうことが指摘されている。つまりセーフティネットの構築や正規社員や非正規社員の格差の是正とかが第一の問題ではなく、あくまでもまずは景気の本格回復に着手すべきだということである。この基本的視座は、セーフティネットの構築や非正規社員、ニート、「ネットカフェ難民」などの「社会的弱者」の立場をないがしろにするものではない。まさに経済格差の元をたつことが先決である、といっているだけである。だが多くの労働経済や社会政策の専門家・実務家たちはこの種の問題を、「単に景気の問題」として軽んじるか無理解のままである。まさに彼ら専門家たちの無知と無関心こそ、彼らのよく使う表現を借用すれば「社会的排除」の最たるものであり、このとき排除されているのは国民全体である。
ところで派遣労働の規制の問題だけども、まあ、派遣の中味もいろいろ、それに対応した規制の中味も、論者に応じていろいろである。僕は『不謹慎な経済学』の中では派遣労働問題への規制の必要性を書いた。それは「偽装請負」や、労働者を人間として認めない様々な企業側の無責任な行為が甚だしいケースは、当然に規制をすべきだと思うからである。これらのケースは特に「日雇い派遣」で顕在化していた。他方で、派遣労働自体を例えば製造業などへの自由化は廃止すべきである、というのには僕は組しない。これも書いたことだが、そうなればやはり失業者が増えたであろうし、またパート、請負、ニートも増えたであろう。この廃止論者は、失業保険の拡充で対応するつもりのようだが、彼らのほとんどすべては経済成長、あるいは「景気の問題」を無視ないし軽視しているので、失業保険では対応できない失職の長期化の可能性を彼らは軽視していることにもなる。
ちなみに毎回間違ったことばかり書いているアルファブロガーが一見するとまともなことを書いたようだが、彼もまた経済成長もしくは「景気の問題」を甚だしく軽視、いや誤解と錯乱しまくっているので、彼を評価すべきではない。結局、本人は絶対認めないだろうがw 実は貧困・格差論者たちと実は彼のような清算主義者は事実上の「景気の問題」のダメポさという点で決定的に表裏一体なのである。『昭和恐慌研究』における清算主義者と社会主義者たちとの暗黙の共闘を参照のこと(若田部論文、田中論文など)*1。