クルーグマン最適財政政策など

 伊藤元重先生のご提案。

 消費税10%で日本を救う法
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090114-00000001-voice-pol

 :そこで、1つの政策のアイディアを考えてみた。この政策を実行できるかどうかは別として、こうした方向で政策を考えたらよいというアイディアである。まず、3年後から消費税を10%にまで引き上げると決定する。これから景気は2、3年は悪そうだから、3年後からの消費税の引き上げであれば、それまでに駆け込み需要が期待できる。消費税を10%に引き上げれば12兆5000億円ほどの税収が見込める。その2年分程度、つまり25兆円を現在、ケインズ政策として将来の日本をよくするための投資に回す。これによってケインズ政策としての景気刺激策が期待される。:

 日本人の健忘症はすざまじいが、実際には「三年後景気回復したら(してなくても)消費税あげる」で駆け込み需要は、すでに97年実施されていたと僕は思うので、今回もまったく効果に乏しいでしょう(消費税増税前数ヶ月間は消費が増えても増税後はかなり急降下で減少。おそらくプラマイゼロでは)。

 それとこの伊藤案でもやはり財政再建病が表れていることである。現在の財政支出の額が、将来の消費税収よりも少ないこと。これは簡単にいえば、いまもらうお金が将来税金で回収されるだけではなく、いまもらうお金以上に将来税金で回収されることを意味している。

 例えばクルーグマンの最適財政政策理論と比べてみよう(おお! 翻訳がいろいろある。これは便利。以下、使わせてもらいます)。まだ十分、このモデルを理解してないんだけれどもブログなので試しに考えてみるということで。

 クルーグマンの最適財政政策のモデルでは、政府支出と一括税の大きさが同じという仮定がかなり重要だという。

 完全雇用の下では、「一旦Gが完全雇用を実現できるほどに高くなれば、政府購入のどんな増加も利子率の上昇によって相殺されて、追加のGはCの犠牲をともなうことになる。限界費用がジャンプするのだ。」といっているように、限界費用のジャンプは実質利子率の大きさによって表現することができるんじゃないか。完全雇用に達したあとは追加的に政府購入を増やしても、それは実質利子率を増加させることでかえって消費を減少させてしまう。

これをクルーグマンIS-LMの昔ながらの図で表現すると以下の図表2のようになる。

 この図表2では完全雇用水準のyrがLM曲線の水平部分からやや右上にカーブを描いているところに位置していることに注意されたい(クルーグマンの昔の論文と合わせた)。いったん政府購入の増加(IS曲線の右上方シフト)が完全雇用水準を達成してしまえば、追加的に政府購入を増やしてもそれはより高い限界費用(=実質利子率の増加)を生み出すだけである。他方で、完全雇用水準に達しないかぎりでは、追加的に政府購入を増やしても実質利子率はほとんど増加しない(=追加的な政府購入は消費をクラウドアウトしない)。

 で、これはあてずっぽだが、伊藤先生のように将来の財政再建を深刻にとる人では、このジャンプした後の実質利子率がより大きいと判断しているのかもしれない。それは結局、経済を均衡させるマイナスの利子率が非常に大きい、と伊藤先生が考えていることを意味しているのではないか。いいかえると長期的な要因、例えば少子化が深刻であって若い世代に財政負担が深刻でありせっせと若い世代は将来の負担に備えて貯蓄に励んでいる(貯蓄>投資)行為が長期停滞を深くしていることを、伊藤先生がかなり深刻に考えている反映ともいえるのかもしれない(上に書いたようにただのあてずっぽ)。

 クルーグマン完全雇用水準に達するまでは実質利子率はほとんど変化しないと考えている。伊藤先生は完全雇用水準に達するまでに実質利子率がかなり(急)上昇してしまう、と考えているともいえるのではないか?

 まさにクルーグマンがいうように、彼の仮定「一括税の仮定は重要であるだろう。この仮定が意味するのは、政府負債について心配する必要がないということだ--将来の税による死荷重について心配することなしに、その債務を支払う為の税をいつでも課することができる」が大きくクルーグマンの最適財政政策の理論を規定している。そしてこの仮定を大きく緩めると伊藤先生に近くなるように思う。

 ただ政府負債を心配することもなく、また同時に実質利子率を低下させる方法があるだろう。それは政府通貨を発行してその発行益で財政政策を行うような場合がひとつ考えられる。あるいはもっと簡単にいうと財政と金融政策のポリシーミックスである(ちなみに念のためにいうとインタゲだけで不況脱出というクルーグマンの伝来の手法もこの財政政策議論となんの矛盾もないことは一部の阿呆以外はみんな認めていることである)。

 クルーグマンが日本の政府負債を重く評価していたことの意味(日本には財政重視ではなく金融政策重視をすすめたこと)がモデルベースでもなんとなくわかってきたような気がする。