ちょっと前、かの『トンデモ本の世界U』で名指しで(僕も含めて)批判された増田悦佐『日本型ヒーローが世界を救う!』(宝島社)の久しぶりのネタです。暇があるわけでもないのですが、日本の論者の書くマンガ表現論が軒並み難しい(遠慮しないで書けば自己閉塞的でつまらない)と思っている私ですが、ひょっとしたらという期待を胸に読んだのが、ティエリ・グルンステンの『線が顔になるとき』。これはなかなか勉強になり、かつ面白かった。なんで日本の表現論はつまらなくてこのグルンステンの一見すると難解そうな著作の方が理解できるのか、一度真剣に考えるべき問題かもしれない。
- 作者: ティエリ・グルンステン,古永真一
- 出版社/メーカー: 人文書院
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その点はまた後日の検討として、中でも上のと学会ネタでいえば、グルンステンがポケモンなどを題材にネオテニー論を展開しているところ。グルステンは、動物行動学者のローレンツや進化生物学者のグールドなどの説明を利用して、ネオテニー(幼形成熟)が「かわいい」という感情を生み出す作用因であることを指摘して、ポケモンの表情分析にそれを適用しています*1。
このネオテニーと日本的「かわいい」との連関は、上記の増田氏の本の中では、日本はネオテニー先進国?であり、子ども文化が大人文化に優位するがゆえに、一定のイデオロギーにこだわらず(というかこだわるのに失敗している)多様な視点のマンガを生み出すことができた、というのが増田氏の大胆?なネオテニーマンガ論でした。
- 作者: 増田悦佐
- 出版社/メーカー: 宝島社
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このネオテニー論の援用に、と学会は上記の本で、俗流な進化論に基づくものとして増田氏の本を「トンデモ」扱いしていました。ネオテニー論の援用が俗流であるがゆえにトンデモ扱いになるのならば、グルンステンの本もトンデモ要素みなぎることになりますが、そんな批判は聞きません。というかグルステンの本への評価をあまり日本では聞かないみたい。
ただこのネオテニー論もそうですが、ダーウィンの『人及び動物の表情について』などの議論も、僕はあまり違和感はないですね。例えば、経済学者でいえばロバート・フランクが『理性の中の情熱』(邦訳題名『オデッセウスの鎖』サイエンス社)の中で、展開している人間の表情論と接続して読めるからです。
- 作者: R.H.フランク,大坪庸介
- 出版社/メーカー: サイエンス社
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フランクはその本の中で、喜怒哀楽などの感情が人間相互で共有されるためには、互いの感情を伝える表情が重要であると指摘しています。例えば嘘泣きとかは、本当に泣くときにしか動かない表情筋(「信頼できる筋肉」と表記されているもの)を利用していないので容易に相手に「嘘」だとばれてしまうなど。本当に泣いたり怒ったり悲しんだりするときにしか利用されない筋肉が、そのような感情をもつときに利用され発達してきた、というわけです(裏面での利己的な動機=嘘泣きなどだけで人間の表情が進化してきたのではない、ということ)。
ポケモンの一部のキャラが「かわいい」とされるのは、このような「かわいい」とされる(めったに使われない)信頼できる筋肉ー楕円形で大きく見開かれた瞳などーの動きを表現しているからである。(名優とか名うての詐欺師など以外では)自由自在にこの信頼できる筋肉を利用できないがゆえに、人々はこのポケモンの「かわいい」表情に共感してしまう。
日本の少女マンガのキャラなどもこのようなめったに使われない「信頼できる筋肉」を異常なほど発達させているといえる。例:見開かれたままの大きな光る瞳など。これらの非合理的な?表情が進化していった原理は、孔雀の羽の進化とほとんど同じである。
ネオテニー的表徴を考えていくと、一見すると非合理的でまともな説明を排してしまいそうな、アニメやマンガの定番の表情表現を、性淘汰や(最終的には)自己利益のための法則の一種として読み解くことができて面白いと思う。下の本は未見だけどそのうち読んでみたい(日本のサブカル文化のネオテニー性を先駆的に積極評価したのが増田悦佐氏だと思うがこの論集にはその指摘はあるのだろうか?)。
- 作者: 内田真由美、児島やよい(企画・監修)
- 出版社/メーカー: 美術出版社
- 発売日: 2008/08/22
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