「三年後の景気回復」はただの財務官僚の作文

 しかし「三年後の景気回復」というのは正気の大人の発想でしょうか。「景気回復」とつけずにただ単に「三年後に検討する」とした方がコミットとしてはまだまともです。この減税などの(小出し)財政政策を先行させて「三年後」に消費税増税、というシナリオは、当初のネーミングや手法からいっても、90年代前半の大蔵省「景気回復」シナリオの劣化コピーです。このことは以前、このブログでも指摘しましたが、以下に再引用。

 94年の一時減税は、今回の麻生政権の減税先行・増税三年後政策を考えるときのまさに完全なる財務省的プロトタイプです。思い出すだけにこれは本当に笑える。たぶん財務省の連中は本当に何も考えてないかたまたまなのか、よほど国民の健忘症をバカにしてる!といいたくなるほどですが。

 いやいやあまりの諧謔?に、つい興奮してしまいましたが。このときの政権は細川内閣。で、中高年は憶えてますよね? あの夜遅い時間にいきなり、細川首相が国民福祉税構想を発表したことを。このとき6兆円規模の所得税・住民税減税の先行と三年後に「国民福祉税」として消費税を3%から7%にアップするという案を出しました。

 もちろんこれ大問題を引起してやがて連立政権の空中分解を招くのですが、とりあえずその年の9月には消費税を97年に5%に引き上げ、減税の先行実施という政府の基本方針が確定しました。この段階で強いコミットが形成されたといっていいでしょう。実際に94年度以降、97年までこの時点で決まった減税+増税の組合せで財政政策は動いていくわけです。ちなみに94年は一時減税ショーを含む最大規模の財政政策、いわゆる「総合経済対策」(グオー!ネーミングまで今回と同じだ! 本当に悪い冗談か?w)が行われた。この「総合経済対策」は、総額15兆2500億円規模であり、またこれを超える一時的減税ショーは以後みられなかった。

 95年も円高・株安がさらに進行しその対策として減税方針が再度確認・実施され、さらに97年からの消費税増税も再度強く確認された。94-96年の減税へ定率減税方式であった。詳細な実証分析は清水谷さんの本を参照すべきです(90年代のこの時期に清水谷さんはバーナンキと同様にリカードの等価命題が成立していて、減税の効果がほとんどなかったとしています)。ただここでは生のデータからいえることとして、この時期の実質家計可処分所得の伸び率は減少傾向で、94年から95年にかけてマイナスになり、96年に若干のプラスになったままそれ以降はほぼゼロ%水準で90年代を終える。家計最終消費支出伸び率は94,95年とバブル崩壊以降の低水準を維持し、96年にわずかに増加し(駆け込み需要は97年の同伸び率を一-3月期に2.5%増、しかし4―6月期は反動でマイナス4%へ)、97年はマイナスに大きく落ち込み、以降0%付近を90年代続ける。この97年こそ「失われた10年」の最大のショックが待ち構えていた年でした。

 リカード等価命題からは、この97年の増税は予期されていたのだから家計への影響はほとんどないように思えるかもしれませんが、消費税増税以外にも医療費値上げ、公共事業の橋本政権による足枷、そしてなによりもこの時期の金融政策は事実上の実質金利の高止まりが深刻だった時期でもあります(マネーサプライの歴史的大低迷)。つまり金融政策ないまま財政政策だけやっても過去の教訓からいうと百害あって一利あるかどうか不明……orz

 長い引用で強調点がぼけてもいけないが、今日のエントリーでさらに付言したいことは、ただひとつ。この90年代は日本だけの長期停滞であったが、それでさえ「三年後」には景気回復は実現しなかった。また最近では(賃金=所得のあがらない)偽者の景気回復の中で「デフレ脱却」を狙ったがそのような低い?ハードルさえもクリアできなかった。

 ましてや今回は国際経済環境が最悪の状況である。このアンラッキーな状況の中で、日本銀行と政府が「三年後に景気回復」を実現できるとすれば、それは海外頼みすぎて(いや神頼みすぎて)、本当に正気を疑う。こういうことは経済学などいらずに多少の世間知と過去を振り返る努力さえあれば気がつくのだが。

 それとこれは注目すべきだが、連立政権だろうがその後の自社政権だろうが、この枠組みが基本維持されていること。この過去の教訓をいかせば、いまの麻生政権のこの「中期プログラム」は政権が代ってもそのままなぜか継承される可能性が大きいことを示唆しているといえないか? そしたら政権交代というのは阿呆…(いや、最近このレトリックが多いので)詐欺の言い換えだろう。