「評価できないほど無茶苦茶」な麻生政権を批判する不透明な政策論

 竹中平蔵氏の特別インタビュー(前編)。しかし本当にこの人と高橋・中川氏は「上げ潮」派といっても別個のように思える。まあ、正直いって竹中氏の政策論よりも、他の万年危機論者、ネットだけで威力のある清算主義者や国家破綻論者、日本銀行とその周囲、財務省の一部とその周囲、の方がよほど批判すべきだろうけれども。

 で、竹中氏の今日の問題意識は以下のようである。

今の景気悪化の要因は3つある。第一に、改革が止まって成長期待が低下し、消費と投資が下方修正される過程で不況になり、経済に勢いがなくなっている。第二にコンプラ不況。政府のとんでもない規制で民間を縛り始めた。第三に金融がまた悪くなってきた。これが”problem”であり、それに対応した”solution”があるべきなのに、”problem”が明確でないから思いつきの政策になっている。

第一の点だが、「改革が止まって成長期待が低下し」とあるが、その「改革」は何を意味し、また「成長期待」とはどこにその根拠があるのか僕にはわからない。わからないものは竹中氏自身がいうように“problem”たりえない。

第二の点だが、「コンプラ不況」というのはどういうものだろうか。これも明示されていないが、後半の“solution”からいうと消費者庁の管轄に関わる問題のようだが、例えば貸金業法や食品などの表示などに関わる規制なのだろうか? それがどのくらい不況に貢献したのだろうか? これも“problem”が不明確である。

第三の点だが、「金融がまた悪くなってきた」ことが景気悪化の材料だそうだ。どの数字をみてのことなのか不明確なので例えば日本銀行のこことか金融庁のこことかで、竹中氏が“solution”としてあげている預貸率はここ1,2年をみても循環的な要因で低下(変動)しているようには思えない。何をもって「金融がまた悪くなってきた」というのか“problem”が不明である。

 本来はこれら3つの問題に対応する対策を講じなければならない。改革については、羽田空港拡張などのナショナルプロジェクトを実施すべきである。コンプラ不況への対応のため、消費者庁を設立するならばその中に規制見直しのための部署を作るべきである。金融については、銀行の預貸率引き上げを金融政策、銀行行政の目的にすべきである。この3つの政策をやれば景気の状況は変わる。2兆円の定額給付金など止めて羽田拡張など別のところに使うべきだ

 すでに上にも書いてあるが“problem”が不明確なので“solution”がなんなのか僕にはわからない。しかし「銀行の預貸率引き上げを金融政策、銀行行政の目的」とすべきであるのか? 金融政策の目的は物価の安定、経済成長率の安定への寄与である。銀行の預貸率引き上げという数値目標は金融政策の目的には一般になりえない。例えば、いままでの経験でいえば、不況からの回復期に先行して銀行の貸出が増加するとは限らない。むしろ数年のラグを置くのがふつうである。もし預貸率の引き上げを目的にしてしまうと経済が予想以上に加熱してしまう可能性もあるだろう。

 公平にいえば、竹中氏の麻生政権批判は妥当することが多い。しかし彼の“problem”と“solution”の組合せこそ前期小泉政権の「構造」という空箱に似た、僕にはよく正体のわからないものに思えるのである。