陳腐な解説とは?

 あるネットの妄言をみててすごくずっこけた。なんでもクルーグマンの戦略貿易政策に関する業績が、オブストフェルドとロゴフの教科書にでてこないから陳腐な理論だそうです 笑。あとその他にも戯言が続いていた気がしたけれどもノイズなので読んでないw

 さてオブストフェルドとロゴフの教科書の題名は『国際マクロ経済学の基礎』といって、ちょうどブランシャール&フィッシャーのテキストの後に定番となり、90年代後半あたりに中心的なテキストとして学んだほうがいいんではないか、といわれたものでした*1。そして確かにここにはクルーグマンの戦略貿易政策は話題になってません、ハイ。

 しかしオブストフェルドはクルーグマンとそもそも長年、国際貿易論のテキストを書いてなかったっけ? はい、いまでも定番の国際貿易論のテキストを書いてます。ちなみにここがその目次です。クリックしてみれば一目瞭然ですが、ちゃんと第2部にクルーグマンの今回の授賞理由となっている戦略貿易政策の入門的な記述が詳述されています。

 ではオブストフェルドはクルーグマンと組むときは「陳腐な理論」を紹介し、ロゴフと組むときは「陳腐な理論」を陳腐ゆえに放棄したのでしょうか? そんな「二枚舌」な人なんでしょうか? いえいえ、全然違います。

 もう賢明な読者の方はおわかりですよね? そうです、オブストフェルドとロゴフの本は「国際マクロ経済学」のテキストであり、もともとミクロ的な話題を含んでいないだけなのです(オブストフェルドとクルーグマンの本の第一部、第二部の話題)。そのネットの妄言はいわば、八百屋にいってアパートでも探している人と同じですね 笑。

 もちろんいまの国際マクロ経済学もミクロ的基礎づけをもっていますのでどこまでミクロ、マクロと区切るのか判然としない場合も多いのですが、戦略貿易政策の話題は慣例?にしたがって国際マクロ経済学には含まれてこないようです(例外もあるでしょうからあれば教えてください)。

 ちなみに両方の本の構成を比較してみましょう。オブストフェルド&クルーグマンのテキストの後半にあたる国際マクロ経済学の話題を、オブストフェルドとロゴフの国際マクロ経済学の本がほぼフォローしているのが目次からもわかるはずです。

 しかしこの手口はなんなんでしょうね。クルーグマンの授賞理由となった業績をこんなへんな理由で「陳腐な理論」というのは、米国での政治的ないし経済学的立場を超えて、クルーグマンの業績を適確に評している人たちに比べると日本のネットの妄言は、妄言ゆえに影響力も大きく、やれやれです。

 しかし最近、当ブログも経済系だけに話題を絞ってからここ二月ばかりかなりアクセス数が増加しました。妄言の影響力は至るところにあるようですが、それでもここ何回かで(アクセス数も増えたのを機会にして)毒警報を鳴らしましたので、そろそろいいでしょう。このブログでも立場を超えて優良なブログやリンク先を紹介しましたし、これからもする予定ですので、それをご覧いただき、それでもまだ妄言に賛同する人は、僕からの親身なアドバイスとしては「公の席でネットの妄言を真にうけていわないほうがバカにされないので吉」を提起させていただきます。所詮、自分の責任なんですよね、啓蒙や教育に過度に期待されてもやはり困るのです。僕もあんまり妄言ばかり読んでると脳みそが縮小しそうです 笑

オブストフェルド&ロゴフ
1 Intertemporal Trade and the Current Account Balance
2 Dynamics of Small Open Economies
3 The Life Cycle, Tax Policy, and the Current Account
4 The Real Exchange Rate and the Terms of Trade
5 Uncertainty and International Financial Markets
6 Imperfections in International Capital Markets
7 Global Linkages and Economic Growth
8 Money and Exchange Rates under Flexible Prices
9 Nominal Price Rigidities: Empirical Facts and Basic Open-Economy Models
10 Sticky-price Models of Output, the Exchange Rate, and the Current Account

オブストフェルド&クルーグマン(の後半)

III. EXCHANGE RATES AND OPEN-ECONOMY MACROECONOMICS.
12. National Income Accounting and the Balance of Payments.
13. Exchange Rates and the Foreign Exchange Market: An Asset Approach.
14. Money, Interest Rates, and Exchange Rates.
15. Price Levels and the Exchange Rate in the Long Run.
16. Output and the Exchange Rate in the Short Run.
17. Fixed Exchange Rates and Foreign Exchange Intervention.
IV. INTERNATIONAL MACROECONOMIC POLICY.
18. The International Monetary System, 1870-1973.
19. Macroeconomic Policy and Coordination Under Floating Exchange Rates.
20. Optimum Currency Areas and The European Experience.
21. The Global Capital Market: Performance and Policy Problems.
22. Developing Countries: Growth, Crisis, and Reform.

*1:個人的にはブランシャール&フィッシャーよりも問題とか解いていくと力がつくのでいいように思えるけどもどうなんでしょ