麻生政権が早くも「暴言」によって大臣辞任という失点ですね。まったくこんな低レベルな政治的失点(発言の是非は置いておきます)をする人をいれていたということは、この政権に緊張感が微塵もない証拠ではないでしょうか? やはり長を選ぶ選挙自体に緊張感がないといけないんでしょうね。
さて対する民主党の経済政策議論で見逃せないのが、「利上げをして景気回復」とでもいう主張がしばしば見受けられることです。利上げをして景気回復というのはただの間違いであり、それを確信犯的にいう場合はただのトンデモ(通常の経済学の発想ではでてこないデタラメ)です。
昨日というか本日真夜中の朝まで生テレビで民主党の枝野幸男議員が大よそ「利上げで景気回復」といわれたとのことです。まあ、おっしゃるのは自由ですが、曲がりなりにも次回の総選挙で覇権を握ろうかという政党の「政策通」がそのような発言を堂々といってしまうこところに、このブログでも毎度書いてますが、民主党の経済政策の空洞化を象徴しているように思えます。
ところで以下に簡単になぜ利上げで景気回復がトンデモなのか、世界的に標準な経済学の教科書であるマンキューのマクロ経済学を利用してみてみましょう。ちなみに民主党の「政策通」の皆さんは、(私とは違いますが)インフレでなおかつ景気が悪いという一種のスタグフレーションの状態を想定しています。その想定に合わせます(これ以外のケースでも利上げで景気回復はいまの日本の現状+経済学からみるとトンデモです)
さてはてな「お絵かき」初登場です(笑)この下手さ、自分でもいいな〜あと(爆
上の図では石油価格が急上昇したときの「不利な供給ショック」に見舞われたときの日本経済の状況が書かれています。縦軸には物価水準、横軸には所得・生産量が描かれているとします。
この供給ショックは、経済全体の費用と価格を押し上げ、総需要(AD)が一定ならば経済はA点からB点に移ります。この図表でのLSは長期供給曲線、Sはショックに見舞われる以前の短期供給曲線です。石油急騰などの不利な供給シックは物価上昇を伴いながら新しい短期供給曲線S´にシフトしてしまいます。
このとき最初の生産量の水準が図表のYにあったとしたら、新しい短期供給曲線と需要曲線との交点であるBに対応する生産量に低下してしまいます。これがスタグフレーション(生産量低下=景気悪化と物価水準の共存)です。
さてマンキュー教授の教科書では、このとき中央銀行(日本銀行)にはこの不利な供給ショックに対応するふたつの選択肢を掲げています。(A)ひとつは中央銀行が総需要を一定に保つこと、(B)もう一つは総需要を拡大すること、です。
これはそれぞれ中央銀行のマネーサプライが現状維持(=総需要は一定)、マネーサプライの増加(総需要の増加)として考えられます。短期名目金利で考えますと前者は金利は一定、後者は金利を引き下げです。
マンキューは(A)の政策はすでに上の図表に暗黙で描かれているといっています(総需要曲線は一定ですから)。このとき生産量は減少して完全雇用水準を下回ります。ただ最終的にはLSとS´の交点である最初の完全雇用水準に戻ります。ただその移行過程で「痛みを伴う景気後退」が生じます。
(B)のケースは総需要拡大のケースでこれを中央銀行が供給ショックを「受容」したケースとなります。ただこのケースですと物価水準が長期的にも高止まりしてしまいます。このケースは総需要拡大のケース(つまり利下げでマネーサプライ拡大のケース)です。
さて以上の想定の下では、(A)でも(B)でも「利上げで景気回復」という選択肢が日本銀行に存在しないことが十分わかると思います。
仮に図表から日本銀行が利上げをしてマネーサプライを減少させ、総需要曲線を左下にシフトさせるとしましょう(民主党議員C案)。この民主党「政策通」案では、短期的に(A)案に比べて一段と深刻な「痛みを伴い景気後退」が生じてしまいます。間違っても景気回復が生じることはありません。
そしてこの猛烈な痛みの後に(本当に戻るかはぼくには疑わしいですが)最初のA点に対応した物価水準よりも物価は低下するというデフレーションを長期において実現します。得ることのできる果実はいずれにせよ完全雇用なので物価水準の高低によらす長期的には同じです。つまり短期的な不況の加速化という深刻な犠牲をわざわざ払っているだけになります*1。
つまり民主党の「政策通」が抱いている経済政策の肝は、(実は景気回復どころではなく)猛烈な景気後退の実現です。
この教科書には登場しない「民主党議員C案」は「利上げで景気回復」というのはそもそもご自分の主張すらまともにフォローしているわけではなく、そもそもがダメな政策(AでもBでもない)に加えて、自分の採用する効果さえもきちんと表明していないことになります。「利上げは景気後退」しかも深刻な景気後退が待っているのは疑いありません。
ちなみに同じ番組に出席された高橋洋一さんに一喝されたそうで、それだけがせめてもの救いです。