藪下史郎先生の訳による注目作が出版されました。このブログでも何度かとり上げましたが、このクルーガーの本は経済学のできることが何なのか=経済学の意義と限界とはどこにあるのか、という問題を考える上でも非常に有益です。もちろん主題であるテロについてもその現状、原因、予防を考える上で示唆的です。
- 作者: アラン・B・クルーガー,藪下史郎
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2008/08/01
- メディア: 単行本
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この本に関連して拙著『不謹慎な経済学』でも序文において、以下のように触れていますのでご参照ください。
:クリューガーの疑問も同じだった。彼は国際機関で利用できる公的データやアンケートなどから、どうして人はテロリズムに走るのかを証明してみせようとした。そしてブッシュ政権を始めとしたて「テロとの戦争」派が中心になってしばしば主張するような考え方、例えば「戦争で負かした後にちゃんと民主的な教育を施せばテロはなくなる」、「戦後復興で経済的に豊かになればテロは終わる」といったものが本当に正しい意見なのかを検証しようともした。
この「戦争で負かした後にちゃんと民主的な教育を施せばテロがなくなる」というのは、まさに弱肉強食・お金がすべて的経済学の「弱肉強食」での「競争力」のアップと同じ発想だ。また「戦後復興で経済が豊かになればテロが終わる」というのは、いうまでもなくお金がすべての問題を解決するという考えとまったく根っこが一緒だ。
ところがクリューガーが見出した事実はこの解決策がまったく役立たないことだった。彼が調査した一つの事例では、テロを行う人はその人が属する社会の中で経済的に豊かであり、また教育水準も高いことが示されていた。例えばパレスチナの自爆テロリストの貧困率は13%だが、パレスチナ全体の方が33%で遥かに“貧しい”、そして自爆テロリストの57%が高卒より高い教育だが、パレスチナ全体では15%にすぎない。日本でも過去の記憶に遡ればオウム事件での犯人たちがきわめて高い学歴や裕福な家庭に育ったものが多いのに驚いたことがあっただろう。それとまったく同じことをクリューガーはパレスチナだけではなく世界的なテロの調査からかなり確度の高い証拠として提供したのだ。:
- 作者: 田中秀臣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/02/21
- メディア: 単行本
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またテロの経済学関連としては、その資金源の問題と現代の国際金融の関わりから以下が面白いです。
- 作者: ジョン・B・テイラー,中谷和男
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2007/11/22
- メディア: 単行本
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さらに戦争や地域的紛争、武器市場、テロリズムなど包括的な議論を初歩レベルの経済学から学べるのは以下の『戦争の経済学』がいいでしょう。
- 作者: ポール・ポースト,山形浩生
- 出版社/メーカー: バジリコ
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: ハードカバー
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- 作者: ポール・コリアー,中谷和男
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2008/06/26
- メディア: 単行本
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