北畑隆生経産次官「デイトレーダーはバカで強欲で無責任だ」説を少し考える

　山崎元氏の発言
　http://diamond.jp/series/yamazaki/10017/?page=1
　池田信夫ブログ
　http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c2f55e2b68f2f925b64cd8f311406cdc

　ところで北畑氏の発言の背景やら丁寧な解説それについての反論は、山崎元氏のものが一番わかりやすい。池田ブログはどちらかというとネット世論を代表しているような感じか？　北畑氏を弁護しているものがあるのかどうか、森永卓郎氏がしているという未確認情報があるがネットでいまいち検索結果で得られなかった。

　で、この「デイトレーダーはバカで強欲で無責任だ」説を、背景も丁寧な解説も抜きにして、この「」の内の発言自体を少し考えてみたい。

　僕がいま適当に検索して読んでみたデイトレーダーについての最新の経済学的分析（意外と少ない）として以下のものがあり、それを敷衍すると、

　（１）デイトレーダーはバカ　→　バカを不合理と読み替えればかなり正しい（反論もあり）

　（２）デイトレーダーは強欲　→　強欲であるという証拠がある。そして強欲な人は損をしやすい（バカでもそうでなくても）

　（３）デイトレーダーは無責任　→　バカならば無責任なのはひょっとしたら政府自身？　本来バカではないのにバカな振る舞いをするのならばデイトレーダーは無責任

　という感じに整理できる。

　それぞれ関係すると思われる論文を紹介し、適当にコメントを加える。

　（１）については、山崎氏はたとえば北畑氏を批判して「脳みそが腐っている」とまでは言うまいが」と書いているが、デイトレーダーがかなり脳天気（能天気）*1なのは、例えばハーシュライファーらのGood Day Sunshine論文がある*2。

　これによると天気がいいとデイトレーダーの取引は絶好調という不合理（＝バカ）な行動が観察される。その他にこの種の不合理（バカ）としては、日照時間の長さ、地磁気の活動、などがデイトレーダーの行動に影響するらしい。つまり最後でもわかるようにデイトレーダーのかなりの人たちがデンパゆんゆんである可能性を否定しきれない（という）。

　このバカ仮説に反論したのが、最近AERに掲載されたLoたちの論文である*3。これによるとバカではなく、デイトレーダーたちは感情に左右されることは確かであるが、それは教育や修練によって修正可能である、つまり本来的にはバカではない（＝合理的である）と彼らは主張している。

　（２）については、バカでなくても強欲である（正確にいうと強欲であることが投資の実績に影響する、例えば取引規模が多くなればなるだけ投資判断が鈍り悪いパフォーマンスにつながる等）ことをLoたちの論文は示唆している。

　（３）についてバカの割合がデイトレーダーの中で相対的に大きな割合を占めたときはどうするか？　バカが取引に参加できないように規制するのか？　天気をコントロールすることを目指すべきか？　バカはスルーするのか？　いずれにせよバカにバカ取引の責任をどこまで負わせるのかは議論があるだろう。いいかえると北畑氏がデイトレーダーはバカなとするならば、無条件に「デイトレーダーは無責任だ」とはいえない。

　バカではない（がバカなことしたり強欲だったりする）デイトレーダーが比較的多数を占めるときはどうするのか？　もしバカではないのに感情に左右されてバカみたいに取引を行うならば、北畑発言のように「デイトレーダーは無責任」であろう。（１）の最後にも書いたが自分でそのおバカ加減を教育とか修練でコントロールできるからだ*4。

　それとデイトレーダーは（一部のずっと儲けている奴が儲け続けるという事象を抜かして）ほとんど損をするに皆一生懸命にやっているかもしれない、という実証がある*5。これはよく考えてみたいもの。
　

　以下の図表をみると、これ自体が何かをいっているわけではないが、バカ仮説の説得力が近年非常に高まってきているのか、あるいは私たちの資産市場へのなんらかの「実感」を表現しているのかもしれない。ネットでの多くの意見は北畑氏の「」内の発言自体に脊髄反射してのものだが、この「」の中を検討するだけでもかなり多様な論点があるような気がするのは僕だけだろうか？