高橋洋一『「成長戦略」の罠』

 アベノミクスの三本の矢のうち、三番目の「成長戦略」について詳細に検討した高橋さんの新作です。「成長戦略」は、規制緩和(本当は規制撤廃)と民営化(本当は民有民営化)によって経済の長期的な成長率の増加に貢献すると期待されるものです。もっとも規制緩和も民営化もその効果が表れるまでに時間もかかり、また市場の結果として出現するので政府がいかようにもコントロールできるものでもありません。しかしいまの「成長戦略」の基本は、官民ファンドのような税金の無駄遣い(=官僚の無責任体質)と産業政策(=不必要な政府介入や政府の旗振り)といった二つの大きな「ムダ」によってその内容が、まさに官僚によって支配されているような状況だ、というのが高橋さんの問題意識です。

以下、個人的な控えのためにいくつかポイントをあげますが、

1 消費税増税は、社会保障の充実ではなく、予算案をみるかぎり、財務省裁量権の拡大だけが目的。
2 財務省・政府の狙う「個人課税から世帯課税へのシフト」は税の中立性の観点で問題。配偶者控除廃止もただの財務省増税体質だけの産物。女性の働く環境を促進することに繋がらない
3 産業政策(産業投資)は官僚の仕事場つくり&天下り先確保などまさに「ムダ」。医薬品のネット販売の骨抜きなど
4 電力自由化、国家特区戦略の骨抜き。GPIFは原則不用。
5 公務員制度改革の頓挫というか消滅。天下り人事の拡大、内閣法制局国会議員を優位する愚。

など、高橋さんの論は相変わらず具体的な数字をもとに展開していて読み飽きません。もちろん個々の論点では検討すべきところもあるでしょう。しかし本書に具体例を示している官僚の前例踏襲主義と無責任主義と、油断するとちゃっかり天下りしている姑息な手法をみると、本当に日本の高級官僚たちはよくやるな(国民の資産のぼったくりと公的オレオレ詐欺)、と呆れかえるばかりです。

「成長戦略」の罠

「成長戦略」の罠