生存権の経済的基礎(メモ書き)


 以前も書いた話題ですけれども、生存権の経済的基礎を巡って考えてます。自分の思想史研究としてはすでに過去エントリーで小文を掲載したのですが、それと相補的な関係にあるのが橋本努氏の『日本の経済思想』第二巻にある左右田喜一郎論だと思われます。この論文は主に左右田の「天才」論への批判を、私が前記の小文で書いた「戦略的な不可知論」と類似した観点から行っているのではないか、と興味を惹かれました。


 それと『週刊東洋経済』で吉川洋先生が書かれていた短文や、ジェフリー・サックスが『貧困の終焉』で、「なぜ豊かな国が貧しい国を援助しなくてはいけないか」という理由として利用していた社会的不安定の回避、という理屈も生存権の経済的基礎として考慮に値すると思います。



 最近では、内藤淳氏の『自然主義の人権論』進化心理学的な発想とも親和的で興味をひく話でした。内藤氏の分析は吉川先生の短文を見事に補強するものでしょう。


 それと生存権を社会的不安定性の回避という観点から、社会構成員の交渉ゲームとして生存権を考える方向に思い至っています。この交渉ゲーム的な発想から、思想史的に最近面白いなあ、と思ったのがエイヤーの晩年の『トマス・ペイン』やラッセルの『権力』での議論です。


 エイヤーやラッセルの社会哲学を考えていくと、生存権の経済的基礎の問題が、実はデモクラシーの問題(闘技としての民主主義、価値多元の問題における論理と権力の問題)ともつながることになるかと思いますが、自分の研究に即していえば、生存権の社会政策と大正デモクラシーでの福田や吉野作造の発言の再評価の問題ともかかわるのかな、といまは思っています。


 ちなみにラッセルの社会哲学は戦前の日本にも大きく影響してまして、この点は三浦さんの鋭利な論説をネットで読むことができます。必読。

三浦俊彦「大正の日本とラッセル−「哲人ラッセル」
という大時代的な鏡が逆説的に映し出す現代の空虚と老成−」
http://members.jcom.home.ne.jp/miurat/MIURA-01.HTM


 で、いま読んでいるのが以下の本です。といっても体調面やら仕事の関連で少しだけしかまだ読んでませんが。このビンモアの見解について何か有益な情報あるかどうか探している最中です。とりあえず主張の核心は英文の紹介を読めばわかるかと思います。

Natural Justice

Natural Justice


以下はオクスフォード大学出版局のHPの紹介

Natural Justice is a bold attempt to lay the foundations for a genuine science of morals using the theory of games. Since human morality is no less a product of evolution than any other human characteristic, the book takes the view that we need to explore its origins in the food-sharing social contracts of our prehuman ancestors. It is argued that the deep structure of our current fairness norms continues to reflect the logic of these primeval social contracts, but the particular fairness norm a society operates is largely a product of cultural evolution. In pursuing this point, the book proposes a naturalistic reinterpretation of John Rawls' original position that reconciles his egalitarian theory of justice with John Harsanyi's utilitarian theory by identifying the environment appropriate to each.


シンポジウムの記録http://ppe.sagepub.com/content/vol5/issue1/