日本がスウェーデン経済モデルから本当に役立てる二,三のこと


 ジェフリー・サックスの論文Revisiting the Nordic Model:. Evidence on Recent Macroeconomic Performanceより、スウェーデン経済モデルから日本経済への含意。


1 小さな政府イデオロギー社会福祉関係支出などの政府規模が大きいと経済をダメにしやすい)は、必ずしも正しくはない(むしろサックス論文の範囲では、積極的な意味でこのイデオロギーは否定される)


2 ハイエクフリードマン命題(福祉国家は隷従への道)は、北欧諸国の民主化レベルをみると完全に否定される。


3 エスニックな同質性が高ければ高いほど社会福祉は充実する傾向にある(ひょっとしたら移民増加政策や出生率を増加させるための移民政策は社会福祉の維持よりもその縮小にこそ貢献してしまうかもしれない)


1,2は数値を以下一部列挙したけれども(用語の訳はあとで微修正予定、数値も補充・日本の数値もブログ断食中でも 笑 暇みて補充予定)、よほど頑迷なイデオロギーをもたないかぎり、小さな政府の方がいい、北欧諸国モデルはダメ、とはいいきれないと思う。もちろんこの北欧(スウェーデンモデル)を他国に移植できるかどうかは別問題で、そのときのキーになるのは、サックスによれば3.米国では人種的な差異が大きいほど、再分配政策が政治的な論争点になってしまい、それが福祉拡充の障害になる、と指摘している。


 これは今日の日本の移民問題を考える点でも興味深い論点を提起していると思う。エスニック(民族的)な同質性を云々すると、議論を深める前に、「日本は同一民族の国ではない(あるいはそういう社会排除思想をもっているのか)」という批判によって議論の横道にそれたりずれたりしてしまいそうだが。今後、この論点をこのブログでも注目し続けてみたい。


サックスのあげた統計(上に書いたように暇みて拡充・修正予定)


社会福祉関連の支出水準

政府受取(税収+そのほか)・GDP比率は、北欧諸国は56%、EC諸国は47%、イギリスなどは38%。日本や米国は30%台前半。
政府支出・GDP比率は、北欧諸国は52%、EC諸国は49%、イギリスなどは38%、米国は30%台前半。
社会福祉関連の対GDP比率は、北欧諸国は20%後半、EC諸国は20%真ん中、イギリスなど108%後半。

北欧諸国は高税収+高社会福祉支出。イギリスなどは低税収+低社会福祉支出の国。税収と社会福祉支出、それに政府支出の特質は相互に正の相関をもっていることが指摘されている。


社会福祉支出の特徴

公共部門の社会福祉支出は1)現金移転(年金など)2)、直接的な政府サービスの供給(育児、障害者へのサービスなど)、3)積極的な労働市場政策(職業訓練、職業計画に沿った政府雇用)に区分されている。


北欧諸国はこの三点ともに高水準(対GDP比)。北欧諸国は過去20年間政府雇用を積極的に行ってきた。米国との各項目の数字は、(北欧:米国 14.2:7.9、11.4:6.7、1.2:0.2)である。米国は公的・私的社会福祉支出を合算しても北欧の水準よりも低い、ことが注目できる。


社会福祉関連支出と貧困


 北欧の社会福祉制度は貧困を減少するのに貢献している。貧困率、下位20%の人口が占める可処分所得の割合、ジニ係数を比較してみると、北欧諸国とアメリカを対比すると、(5.6:17.1、9.7:6.2、24.7:35.7)である。


北欧諸国の福祉政策がもたらす労働市場の帰結


 高い福祉政策はハイエクのいったように労働者のやる気を失わせるなど雇用に悪影響をもたらすか? 北欧諸国は高い就業率を維持している。これは過去10年あまりの積極的労働市場政策の成果、さらに政府の公的雇用(高齢者、未熟練労働者、障害者らの雇用)の促進の成果、である。これらは地方での社会福祉関連のサービスを行う人員として雇用されている。失業率は、フィンランドの失業率が高いが、他の国々の失業率は低位でありEC諸国より格段に低い。これはEC諸国の失業率の高さは、就業インセンティブを伴わない失業手当によって、実質賃金が高止まりしているせいである。