タミフル問題についてITOKさんにお願いして主にネットで収集できる資料・議論を中心にまとめてみました。これはもちろん素人がこの問題に関心をもって(専門家もしくは関係機関などのソースから)いくつかの論点を抽出し、自分たちなりに議論を整理するために行ったものです。僕の貢献は全然ありません。ITOKさんありがとうございます。また同様の試みとして私が目にしたものでは、finalventさんのエントリーも有益で下の私たちのものと補い合うと思いました。
なおタミフルの副作用問題に直接は関連しませんが、間接的な問題圏といえるインフルエンザの世界的流行(パンデミック)を扱った著作について以前、僕は書評を書いたことがあります。このブログの過去エントリーにも掲載しましたが、関連もするかな、と思いここにも再掲載します。それと経済学者としてはポズナーの一連の著作が参考になるはずですが本日時間があれば紹介します。
タミフル問題を考える素材集
2.リスクとベネフィット
- a)リスク
- b)ベネフィット
- ▼参考)インフルエンザの危険性
3.対応
- a)ない場合
- 使用に問題はない
- b)ある場合
- 使用中止(→浜氏見解)
- 使用制限(→現在の厚生労働省の措置)
- 副作用の情報提供だけで制限はしない
これらとは別にタミフルの過剰使用には
- 耐性株の出現(増加)
- 備蓄量の減少
という問題がある。
- 参考)
- 抗インフルエンザウイルス薬の安定供給等について(行政指導)(厚生労働省)
- タミフル適正使用についてのお願い(日本感染症学会)
備蓄量
日本では、毎シーズン1000万人分程度の抗インフルエンザウイルス薬が使用されています。例えば2004/05のインフルエンザシーズンでは、オセルタミビル(タミフル)を中心として、約1500万人分準備(医療機関保有分およびメーカー・販売会社の在庫分の合計)されて、1200万人分程度使用され、 2005/06シーズンでは、約1200万人分が準備されたようです。ただし、通常インフルエンザシーズンの終了後には、その多くが使用されてしまっているために、数百万人分程度が残るにすぎません。
4.注)
※1 前述厚労省研究報告(横田報告)によれば 異常言動 2,846例中299例 10.5%
抗インフルエンザウイルス薬の使用数は毎年1000万人程度
※2 タミフル添付文書
(改定前)
3.副作用
(1)重大な副作用
7)精神・神経症状(頻度不明):精神・神経症状(意識障害,異常行動,譫妄,幻覚,妄想,痙攣等) があらわれることがあるので,異常が認められた場合には投与を中止し,観察を十分に行い,症状に応じて適切な処置を行うこと。
(改定後)
7)精神・神経症状(頻度不明):精神・神経症状(意識障害,異常行動,譫妄,幻覚,妄想,痙攣等) があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,症状に応じて適切な処置を行うこと。
※3 発熱によるせん妄はタミフル服用の有無にかかわらず起こり得ることである(ただし,これはタミフル服用による異常行動を排除しないことに注意されたい)。
参考)インフルエンザの経過中に異常言動・行動を呈した症例の検討(日本小児科学会 | 学会雑誌 111-1)
※4 中外製薬は1歳以下の乳児には使用しないようにとのこと
- タミフルの乳児に関する使用について(PDF)(医薬食品局安全対策課) (平成16年2月13日)
※5 「インフルエンザ脳症ガイドライン」(PDF)
(厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
新興・再興感染症「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究」班)
※6 重症化,死亡数の推移
高齢者や、呼吸器や心臓などに慢性の病気を持つ人は重症化することが多いので、十分注意する必要があります。最悪の場合は死に至ることもあります
Q1.インフルエンザと普通のかぜはどう違うのですか?(インフルエンザQ&A(一般向け)2006-07版,国立感染症研究所 感染症情報センター)
(略)
インフルエンザが流行した年には、高齢者の冬季の死亡率が普段の年より高くなる
※7 Q.13. インフルエンザの疫学的な特徴には何がありますか
(インフルエンザQ&A(医療従事者向け)2006-07版 3インフルエンザの流行,国立感染症研究所 感染症情報センター)
※8 Q.3 インフルエンザの合併症について教えてください
(インフルエンザQ&A(医療従事者向け)2006-07版 1インフルエンザの総論・臨床,国立感染症研究所 感染症情報センター)
5.参考資料)
○中外製薬
- インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究について
(医薬品・医療機器等安全性情報229号|厚生労働省) - タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)
- 新型インフルエンザ対策関連情報〜新型インフルエンザに関するQ&A
- 抗インフルエンザ薬について,タミフルの副作用に関する厚労省の見解など
- 抗インフルエンザウイルス薬の供給について(10月31日時点での企業からの聞き取り結果を基に作成)
- 他の抗インフルエンザ薬(リレンザ,シンメトレル)についての説明アリ
- ○[http
- //www.fda.gov/:title=FDA]:(U.S.Food and Drug Administration:アメリカ食品医薬品局,Wikipediaの項目)
◆Food and Drug Administration Pediatric Advisory Committee November 16, 2006 Briefing Information(FDA小児諮問委員会の11月の会合)
- Tamiful AE Review(PDF)
- その他の項目)
- Tamiflu Medical,Tamiflu Clinical Pharm,KP Tamiflu FDA Label 12-2005,Tamiflu Package Insert 11-2006,Tamiflu Patient Product Information 11-2006
○医薬ビジランスセンター(理事長:浜 六郎)
- タミフルの承認取り消し・回収を要望
- 「薬のチェック」の緊急警告!事故死・突然死の原因はタミフル!
- 浜氏が書かれた参考文献へのリンクあり
○国立感染症研究所 感染症情報センター
◆インフルエンザ
- 疾患別情報>インフルエンザ
- インフルエンザQ&A(一般) 1インフルエンザ総論
- インフルエンザによる死亡数の推移など
- インフルエンザQ&A(医療従事者向け) 2006-07版
- Q.5 インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?
これらの抗インフルエンザウイルス薬は、発症後48時間以内に服用することにより、合併症のないインフルエンザでの罹病期間を短縮することが確認されています。ハイリスク患者においても、抗菌薬を必要とするような合併症を減少させたという報告もありますが、合併症などの重症化を予防できるかどうかについてはまだ結論は得られていません。
- Q.13. インフルエンザの疫学的な特徴には何がありますか
インフルエンザは流行性の疾患で、流行時には短期間に全年齢層を巻き込み、膨大な数の患者を発生します。この理由は(1)インフルエンザは発症(発熱)の約1日前から感染性があり、発症から24時間程度がもっとも感染性が高いこと、(2)おおむね1人の感染者から3人の新たな感染者が生じること(基本再生産率が3であるといいます)、そして、(3)潜伏期が短く、このため世代間時間が短いため、短期間で急速に患者数が増加するためです。
(略)
インフルエンザの大きな流行があると、非流行時に比べ死亡者数が著しく増加する傾向が認められます。世界保健機関(WHO)は、これを「超過死亡(excess death, excess mortality)」と呼ぶ概念で、インフルエンザの流行の社会への影響の大きさを評価する際に利用することを推奨しています(IASR Vol26, No11 p293-295)。
インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡数および肺炎死亡数が顕著に増加し、さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡も増加、結果的に全体の死亡数が増加することが明らかになっている(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすく、先進工業国などで共通に見られる現象となっている。高齢者の全人口に対する割合が急増している我が国においても、超過死亡は1998/99 シーズンには3 万人以上も観測され、超過死亡の8 割以上は65 歳以上の高齢者によってもたらされており、社会的な問題となっている。ほとんどの先進工業国では高齢者のインフルエンザ予防接種は公費負担によって行われており、我が国でも、高齢者に対する予防接種を一部公費負担とする法案が本年10 月31 日に成立し、11月7日に公布、施行となった。
IDWR: 感染症の話 2001年第44週(10月29日〜11月4日)掲載(感染症発生動向調査週報)
◆インフルエンザバンデミック
日本では、毎シーズン1000万人分程度の抗インフルエンザウイルス薬が使用されています。例えば2004/05のインフルエンザシーズンでは、オセルタミビル(タミフル)を中心として、約1500万人分準備(医療機関保有分およびメーカー・販売会社の在庫分の合計)されて、1200万人分程度使用され、 2005/06シーズンでは、約1200万人分が準備されたようです。ただし、通常インフルエンザシーズンの終了後には、その多くが使用されてしまっているために、数百万人分程度が残るにすぎません。現在、厚生労働省では、パンデミックに備えて、約2500万人分の備蓄を計画していて、2006年12月現在その約半数の備蓄が完了しています。
疾患別情報>インフルエンザパンデミック
- 6.インフルエンザと話題の関連疾患・インフルエンザパンデミック:インフルエンザQ&A(医療従事者向け)
- Q14. 日本に抗インフルエンザウイルス薬は十分あるのでしょうか?(インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A)
○リヴァイアさん、日々のわざ(川端裕人氏のブログ)
- 不都合なタバコの真実@週刊東洋経済(読了して追記)【2007.03.20】
- コメント欄にて津田敏秀氏(zusammen氏)が浜六郎氏の厚労省報告書についての見解は妥当とする。
その他も津田氏の解説が参考になる。
- タミフル対策、あなたの考えは【2007.03.29】
- 津田氏のコメントを受けて。引き続いて[:title=横田報告書]の検討。
- 39.5度【2007.03.30】
※
津田敏秀氏については
菊池誠氏(きくち氏)については
を参照のこと
○その他
- 使用上の注意改訂情報(平成19年3月20日分)
1.【医薬品名】リン酸オセルタミビル - リレンザ(グラクソ・スミスクライン)
- 日本におけるスペインかぜの精密分析(東京都健康安全研究センター年報,56巻,369-374 (2005))
1918年から1920年に流行したスペインかぜは,全世界で患者数約6億人で,2,000万から4,000万人が死亡したとされている.>
日本におけるスペインかぜの精密分析(東京都健康安全研究センター年報,56巻,369-374 (2005))
(略)
日本においても患者数が2,300万人,死者38万人という流行を見た>
◆インフルエンザ脳症
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児医科学内
- 「インフルエンザ脳症ガイドライン」(PDF)
- 厚生労働省 インフルエンザ脳症研究班
新興・再興感染症「インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究」班
- 「インフルエンザ脳症」の手引き(MS-WordのDocファイル)
※インフルエンザ脳炎・脳症患者の年齢については
- 「インフルエンザ脳症の予備知識」(人生を元気に歩もう!)
に引用がある。
書評(『週刊東洋経済』掲載)
『史上最悪のインフルエンザ』
アルフレッド・W・クロスビー
- 作者: A.W.クロスビー,西村秀一
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2004/01/17
- メディア: 単行本
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第一次世界大戦による伝統的な価値観の喪失を背景にして誕生した「失われた世代」の代表といえば、文豪アーネスト・ヘミングウェイとスコット・フィッジエラルドをあげることができよう。ヘミングウェイの代表作『武器よさらば』に登場するヒロインは、大戦中に知り合った看護婦がモデルであることは文学史では有名なエピソードである。しかし、そのモデルとなった女性がインフルエンザで病死したことはほとんど知られていない。またフィッジエラルドの所属した部隊は、インフルエンザの流行のために出発が遅れてしまい、幸運にも彼の戦争体験はまさに「失われた」ままに終わったことも同じように知られていない。そもそも「失われた世代」の命名者であるガートルード・スタイン自身が、インフルエンザ患者を搬送する救急車の運転手でもあった。
クロスビーによれば、第一次世界大戦は、戦争という極限状況の一方で、パンデミック(インフルエンザの世界規模の流行)というもうひとつの極限状況が現出した時代でもあった。ヘミングウェイたちの人生と同様に、パンデミックはこの時代の人々の精神や社会の動向に深刻な影響を与えた。1918年から19年にかけて、インフルエンザによる死亡者数は世界中で3000万から5000万人にものぼったという。アメリカでは戦闘によるよりもインフルエンザが原因となる死者のほうがはるかに上回っていた。本書の前半では、当時、まったく未知な経験ともいえたこの感染症の大流行によって、アメリカ陸軍が壊滅的ともいえる打撃を被ったことが生々しく描写されている。
そしてパンデミックによって世界の流れまでも影響を被ってしまった。パリ講和会議において、アメリカのウィルソン大統領はインフルエンザに罹患し、その判断力と行動が制約されてしまい、ついにドイツに過酷な条件を課すヴェルサイユ条約が締結されてしまう。つまりインフルエンザがドイツの苦境を深刻なものとし、やがてナチスの台頭や次の大戦の準備まで用意してしまったのかもしれないのだ。インフルエンザ恐るべし。
本書は多様なエピソードと詳細だがわかりやすい医学情報を駆使して、この世界規模で広がっていくインフルエンザの流行を克明に描いている。予防も治療法も解明されていない感染症の流行がいかに人類に脅威であるかを本書は教えてくれるが、またその治療と原因の究明に取り組む人々の情熱も伝わってくる、まさに多面的なパノラマのような作品である。今日、われわれも未知なるパンデミックの襲来に警戒を強める中で、歴史の教訓として読むべき一冊といえよう。