『SIGHT』誌:小野善康×大竹文雄対談を読む


 ようやくゲット。そういえばみうらじゅん長澤まさみ嬢たちを論じた秀逸な論説が掲載されている『キネマ旬報』9下も買いそびれた。あと『論座』の先月号の若田部、原田論文も読み逃し 近所の図書館にでも読みに逝こう。いまでている英の『NATURE』は今日ぐらいに手に入れないと。


 閑話休題。周回遅れで読みました。大竹さんの議論はよく存じ上げているので、小野先生の発言を中心に今回は注目しました。小野先生の発言要旨は下のようなもので違和感はあまりないものでした。


1 格差感の原因は不況(「働く場があるかないか、格差論は、そこをはっきり区別すべきです」、「でもマクロ的に明らかに不況状況にあるならば。「活力を生むためには格差が当然」なんていう論理には絶対的に反対しなきゃダメです」)


2 中川秀直議員を代表とする自民党主流の雇用流動化・1の論点を無視した格差容認論への批判。ここらは小野先生の民主党へのシンパシーにつながるのでしょうね。


3 「ゆとり教育」については、大竹さんの整理(公立のレベル下げて、私学に逃げれるお金のある家庭との教育格差生んだ)に小野先生同意。
 「ぼくもそう思う。さっきのふたつの格差(不況が原因の格差、完全雇用が保証されたときの格差:田中注)論で言うと、ゆとり教育の場合は、完全雇用のもとで無理に格差をなくして、頑張る意欲を削いで効率を悪化させるのと同じですよ。つまり、学校に入れることを保証して、公立では競争をなくしたから、やる気が起こんなくなった」


4 小野先生は成果主義には批判的。日米の意識比較(米は成果、日は努力重視)をもとに、成果は運も努力もこみこみ、日本は単純にかけた時間で評価する、という大竹さんのまとめを小野先生も基本的に前提して、さらに成果主義はいつも監視されていて、その監視している側が必ずしも監視されている人たちの仕事の中味を理解していず、監視するためのコスト(例えば研究費の申請などに必要なペーパーワークが膨大)を引き上げているとしている。


 この例示ででてきた研究費問題は非常に重要。文科省行政の負の側面でしょうね(同様の論点を含む主張はここに)


5 興味深い両者の意見対立について。主に地域格差についてだが、これは世代間の格差継承問題と実は密接につながっていて、世代間の格差継承問題と地域格差問題をおそらく基本的には同じ視点で捉えている大竹さんと、それは違う次元の問題だとする小野先生との視点の相違が鮮明に出ている。


 不況が格差を生む→生涯所得の不況による低下→世代をまたいで子どもに継承する危険性あり→不況対策に加えて(a)公的教育の完全無料化、奨学金制度などの充実が必要


 構造的な賃金格差問題→賃金格差自体は次の世代が別な職業をさがし違う訓練をうけるインセンティブを生み出す(例えば昨日みたこの映画『フラガール』はいいレトリックとして機能するかもね)→賃金格差はだんだん縮小するはず→問題は教育訓練受けるお金の問題(上記の不況対策や(a)の設計が論点:田中注、これは注してもしきれないほど重要だと思いますね)。


 世代格差の対応としての相続税の税率引き上げの主張。小野先生は100%ですか(笑)。


 地域格差の問題も上記の賃金格差問題と同様なロジックで考えるのが大竹さん。構造的な不況に陥っている地域(職業)がいやなら別な地域(職業)にうつるのがいいし、そういう移動のインセンティブを保つ(比ゆ的には地域間競争は放置ということ)。

 小野先生は大竹さんの考えだと国土の保全ができない=地方がゴーストタウン化しちゃう、とする。大竹さんは地方すべてがゴーストタウン化はしない、と考える。この対立点がなぜか地方財政システムの問題にからんでいってしまうのだけれども、とりあえず不況や財政システムの問題と切り離してこの対立点はあるように思える。あるいは不況対策や地方財政システム(国土保全対策ではなく特殊な利権だけが潤うシステムの問題)が解決すれば、地域間格差は両人とも放任かは座談ではよくわからなくなっている。


 感想。構造的不況ではないならば不況対策(従来型のマクロ経済政策による割り当て)で問題の多くは解決できるはず。確かに10数年停滞が生じていて、その時期に若年で失業したりフリーターになった人たちの生涯所得の落ち込みの問題があるが、キーはそれを次の世代に継承しないこと。不況対策前提の上で、(a)の論点をもつ教育制度の設計が重要になると思う。ところで不況対策では田中はリフレ政策(デフレ期間での名目所得減少分を事実上リフレ期間で取り戻す政策)を主張している。不況によって失業やフリーターになった人たちの生涯所得の落ち込みをカバーするという政策見地がリフレ政策には含まれているはず。まあ、この点は大竹さんも小野先生も採用しない(しないよね?)だろうから、勢い論点は(a)の充実という話に傾斜していくのだろう。


最後に小野先生が民主党贔屓とはいえw まるで小沢主義みたいな日本的価値観(努力に価値置くシステム)称揚しているのが興味を引いた。


 僕も『日本型サラリーマンは復活する』で書いてこの種の日本的価値観のよさも書いたけれども基本的には放置すべき論点ともいえる。僕の本の題名で誤解されるけど、日本型がいいからそうしろ、という話ではなく、日本型もいいところあるよね(問題もいっぱいあるけど)そのよさがだめになつてるようにみえるのは不況のせい、よさを取り戻したいならば不況対策をしましょう以上 という話でした。小野先生もそういうことと理解しておきます。


(余談)小野先生のブログへのリンクまだ? とはいえ個人的にブログって小野先生むきじゃないような気がしてるガス。ブログはどこか壊れた人むきでガス(当社比)。小野先生も一緒に壊れてみますか?