日本銀行のゼロ金利解除には根拠がない


 さて日本銀行がゼロ金利を解除しました。昨日のエントリーにも書きましたように、


1 日銀は、量的緩和解除→日銀当座預金残高削減 と 今回のゼロ金利解除 を切り離して考えています。(不連続説)


2 しかし、私には「量的緩和解除→日銀当座預金残高削減→今回のゼロ金利解除」という一連の金融緩和効果の剥落化(減少)という「機械的」な進行にしか思えません。すでにこの観点からの批判は、『エコノミスト』高橋洋一氏の論説論考『世界同時株安の責任は日銀にある」が丁寧に行っています。(連続説)


 その高橋論説の要旨は、「当座預金残高の減少が今回急激であったため、日銀がコントロールできる日銀券発行残高+当座預金残高の2割減少が、物価上昇率の予想(期待)を高めて、実質利子率をジャンプさせてしまったことで株価低迷に至った、と説明しています。前回2000年でもゼロ金利解除後は三ヶ月上昇でその後は転落し、再び一年たたずにゼロ金利に回帰」ということです。つまり株価下落を日本経済低迷にむけての先行指標とみなしているわけです。

 
 さて今回、日銀がゼロ金利解除を行った理由をみておきましょう。参考資料はいまのところ、これ と Bloombergの日高記者の記事*1ぐらいしか私はまだ目を通してません。もちろん頻繁に引用される日銀預言書w「展望レポ」も忘れてはいけません。


 さてゼロ金利解除の理由は、


日本銀行は、これまで長期にわたりゼロ金利を維持してきたが、経済・物価情勢が着実に改善していることから、金融政策面からの刺激効果は次第に強まってきている。このような状況のもとで、これまでの政策金利水準を維持し続けると、結果として、将来、経済・物価が大きく変動する可能性がある。日本銀行としては、新たな金融政策運営の枠組みにおける2つの「柱」*2による点検を踏まえた上で、経済・物価が今後とも望ましい経路を辿っていくためには、この際金利水準の調整を行うことが適当と判断した。この措置は、中長期的に、物価安定を確保し持続的な成長を実現していくことに貢献するものと考えている。」


です。「展望レポート」では、このレポートが公表された段階(4月)で、すでにGDPギャップゼロ近傍で、将来的なインフレ懸念もいっておりますので、先の日銀の不連続説からいえば、この展望レポートの説明は今回のゼロ金利解除の理由にはそのままなりません。そうなると、


このゼロ金利維持がもたらしかねない

①将来、経済・物価が大きく変動する可能性


とは具体的にはなんぞや? ということになります。いいかえますと展望レポートの懸念が一段と強まったという理由を日銀は開示しなくてはなりません。


①については、設備投資の上ぶれ説がマスコミで報じられていました(直近の日銀短観をうけて)。それについて総裁は記者会見で


金利を一定の水準に長く据え置いた場合には、先々そういうリスクはあり得べし、とは申し上げているが、短観で設備投資がしっかりしていることが即、設備投資が強過ぎるという判断をしているわけではない。第2の柱でそこをリスク要因として、今回の政策措置に直結して物事を判断したということはない」(上記ブルームバーグ記事からの引用)


としているので、この今回のゼロ金利解除の直接の理由となる①の説明が総裁の記者会見には見当たりません。いいかえますと、ゼロ金利解除の決定がまさに客観的な基準ではなく、ただ単に政策委員の皆様がたの脳内判断(裁量)に大きく依存して決まっている証じゃあないのでしょうか?


 繰り返しますが、「預言書」はありますが、ゼロ金利解除のタイミングなどはどこにも書かれてはおりませんし、仮に4月段階でのGDPギャップゼロ=①の蓋然性が高まったとするならばその証拠を提示してほしいものです。0.5〜0.6%のインフレ率が5ヶ月や6ヶ月続くときは①の可能性がゼロ金利を解除するほどではなく、7ヶ月続くと①の蓋然性がゼロ金利解除するほど高まったというその根拠ですね。


 さてこの「預言書」自体にもすでにリフレ派のエース級と思われる方の匿名記事があります。以下に私のまとめで申し訳ないですが再掲載。


ドラゴンさんの「「需給ギャップ」を再考する」です。


日銀の潜在成長率の可変性を利用したインフレ率の感応度の低下傾向という組み合わせへの批判となります。



 潜在成長率というのは、経済の存在する資源(労働、資本など)を完全利用したときに実現できるとされる潜在GDPの成長率を指します。これが(a)日銀は90年代から02年ごろまでの潜在成長率が1%以下の水準、それがそれ以降現在までは1%台後半まで回復と説明。同時に(b)消費者物価上昇率が緩やかにしか変化しない理由をIT化やグローバル化で説明しているわけです。



 通常、(a)ですと潜在成長率を上回る現実の経済経済成長率が見られれば消費者物価上昇率は加速しても不思議ではない。しかしそうではない現実を、日銀は(b)の論理で説明していることになります。いいかえますと景気回復がまだ本格的ではない(=リフレ派みたいな人w)に対して、消費者物価上昇率はそれほど変化してないがもう十分景気は過熱化して引き締めキボンの状態だよ(日銀)ということをいいたいためのロジックです。



 これに対してドラゴンさんはドラァゴラァと吼えます。



(1)潜在成長率は90年代もそんなに低下してないよ。むしろ需要の落ち込みのほうが大きく、デフレギャップが拡大し続けた。

(2)デフレギャップは大きいので景気がよくなってもそんなにインフレ率は上昇しない

(3)日銀の潜在GDPの推計には問題あり

   (3-1)パート比率や労働力比率の低下を「構造的要因」で考慮してるけど、これって(大竹vs森永・田中論争や玄田ニート批判でもおなじみの)      景気が悪くて失業、求職意欲喪失者の増加やパート比率の高まりという「循環的要因」じゃないのよ。()は田中補遺。

   (3-2)実際に景気回復して労働力比率が高まってる(最近、正規雇用だって減少傾向から増加傾向へ弱いながらも変化してんじゃないの)。()内は    田中補遺

   (3-3)日銀はこの労働力比率の下げ止まりも構造変化といいかねない。(構造要因が一年や二年で大変化するとはとてもいい構造要因ですね、奥さ     ん) ()内は田中補遺

(4)だいたい地域経済に目を転じれば雇用面のスラック(≒資源の未利用)が存在するのは自明。だから高い成長率でもインフレ率は加速しないのだ、バカボンバカボンは田中補遺)。

(5)つまりスラックがない≒資源の完全利用を前提にして高い成長率+インフレ率の緩やかな上昇をいうために、そうそのためにこそ、日銀は高い潜在潜在成長率が必要なんじゃないの? まるで潜在成長率が景気に可変的に思うまま変化しているようですよ、奥さん!(奥さんは田中の補遺、念為)。

以上。

 まったくこれを前提にして金融政策の舵とってんですぜ。その帰結は行き過ぎた引き締めか、あるいはうまくいったって名目成長率の安定化殺し=ドーマー定理(財政再建のソフトランディング)殺しや、リフレ殺しですなあ。(ーー)

*技術的補遺のために記事より引用

「日銀は新しい需給ギャップについて、「短観の設備・雇用判断DIの加重平均と極めて似通ったものになっている」というが、例えば、雇用判断DIゼロは単に社内失業が解消されたことを示しているのであって、経済全体のスラックが無くなったことを意味しているわけではない」。


 さて、以上をまとめますと


1 ゼロ金利解除は、高橋論説や安達誠司さんの『脱デフレの歴史分析』(藤原書店)にあるように、経済の不安定化をもたらす懸念が強い。


2 今回のゼロ金利解除の根拠がはっきりせず(いや、簡単にいうと理由がない)、まさに裁量(政策委員の脳内)でしかない。つまり利上げが自己目的化している*3


3 ドラゴン論説にあるように、現状の展望レポート自体が潜在成長率の恣意的ともいえる景気可変性?にしたがっているために、実際のデフレギャップの無視=デフレの無視に直結している。


です。


 裁量に依存する*4委員や日銀事務方の脳内=日銀至上主義を覗いたり、お友達?になることが商売につながるので、記者やエコノミストさんたちの商売は繁盛になるんでしょうね(棒読み)。


ついでにちまたの解除後の花道の噂を否定して、総裁は最後までいすにしがみつくつもりですので、私これからもみのもんたがあきらめても粘着にスキャンダルの恥さらしを追求し続けますのであしからずw


 実は本日、間が悪く新著の校正ゲラ出の日でして、上の記述多少粗くあるかもしれませんので(いつもか(^^;))何か誤りなどありましたら指摘してくださいな。

*1:リンク切れてる可能性あり、遅くとも火曜には日銀HPのにリンクします

*2:1.2年間の長期視野、2.リスク要因の勘案 田中注

*3:ついでに補足しますと、不連続説の日銀の真意は量的緩和の金融緩和効果の否定になあるんでしょうね、あれはあくまでもプルーデンシャル政策なんだというねえ(ーー;)。他方、ゼロ金利は金融緩和効果ありってことなんでしょ。ここにもマネー殺しの日銀スタンダード生きてますw

*4:いままで書いた理由から、例えば今日の決定における文言「政策金利水準の調整は、経済・物価情勢の変化に応じて徐々に行うことになる。この場合、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと判断している」という文言もまさに昔懐かしい日銀流理論の名目金利の受動的微調整としてしか読めないのです