海老原嗣生・荻野進介『日本人はどのように仕事してきたか』

 献本頂戴しました。どうもありがとうございます。これはなかなかこった本です。いや、海老原さんの本は視点と本のつくりが、いわゆる雇用や就職、仕事を扱った本の中では、毎回着想と工夫の点で際立ってます。

 今回は日本の雇用問題をめぐる名著だとか注目の本をおもわれている時論系の著作の意義とダイジェスト、そして著者宛の意見提起、さらにそれに(一部を除いて)本人からの直接の返事を掲載するという非常に贅沢な本です。最後の人選だけは失敗でしょう。もっとちゃんとした(公的組織の擁護を露悪的にしていない)人の著作は多いと思いますし、内容的にも同類でさらに現代的な意義をもつものは多いでしょう。それをしっかり選んでください。いや、むしろ最後はご自分の著作をひとつあげてそれとの過去と現在の自分対話をするのも工夫としてはありだったでしょう。

それ以外は実に面白く読めます。僕は部分的にチョイスして読んでます。

日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)

日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)

川井徳子『不動産は「物語力」で再生する』

  川井徳子さんとは10年来の知人であり、以前からその歴史的な感性と素養に裏打ちされた現代の日本をみる視点には、はっとさせられることが多々ありました。今回、川井さんの初めての著作である本書を一読して、いままで川井さんとの対話で得てきたものがほんの氷山の一角であることを知りました。本書は、難しい「不良債権」物件を見事に甦らせる若き女性経営者の逸話という形を一応は借りています。例えば、荒廃した名庭園―何有荘を復活させ、それをクリスティーズを通して世界市場で売却し、日本でも過去にない市場を開拓した手腕、あるいは不良債権を競売で得て、いまや『ミシュランガイド 京都・大阪・神戸・奈良2012』で二つ星のホテルとして掲載されるまでの素晴らしいホテルとして再生したその手腕、そういった経営物語としても、この本は読むことは可能です。しかし本書には、表題にあるように「物語力」、それは川井さんの言葉を借りれば、人間が生きていく上で持っている「水面下の大きな部分」、つまりアイデンティティのよってなるところを解き明かしていくことでもあります。それはすぐれて文化と経済の結節するところでもあるのです。この「物語力」という視座で、川井さんが手がけられた多様な事業展開をみていることは、「物語の経済学」を最近の専門としている僕にとっても無視できないものでした。川井さんとはこの本をめぐるお話をすでにより深くお聞きしていて、それは近々、real Japan.orgの対談シリーズで公開します。お楽しみに。

不動産は「物語力」で再生する

不動産は「物語力」で再生する

『女性自身』でコメント

 取材のときよりもだいぶマイルドというかまるで勉強対策みたいになってるけど、どっちかというと親の就職への関与は「必要悪」的な認識は正直ある。政府が事実上、就職対策(文科省の対策ではなく、マクロ経済対策のそれ)を放棄が長期化している中で、就職市場の根本的な変化に、学生、大学、そして親がより積極的に関与しなくてはいけなくなった現実が背景にある。あと資格の取得もそんなに資格とるのが自己目的化ではないし、もちろん学業優先の方がメリットでかい。特に偏差値40の大学ではなおさら。

 そこらへんの詳細は雑誌記事だけではなく、以下の拙著を読んでよく理解してほしいと願う。

偏差値40から良い会社に入る方法

偏差値40から良い会社に入る方法

ヨラム・バウマン『この世で一番おもしろいミクロ経済学』

 話芸経済学者として西のヨラム・バウマン、東の田中秀臣(嘘 といわれるバウマン氏のあのマンガ版ミクロ経済学山形浩生さんの翻訳でついに登場。これは版権取ろうとして山形さんたちに先こされたものw たぶん同書を日本で一番早く紹介しただけにのんびりしてて後悔w でもまあ僕がやるよりはやはり山形さんが訳したほうがいいよね、僕自身がそう思ってるから 笑

 ただし原書の英語のもそんな難しい英語じゃないので、高校生あたりでも読めるので本書を照らし合わせて訳のお勉強と経済学のお勉強をダブルでできると思う。

 それとやはり本書は簡単なゲーム理論や、またコースの定理やオークションなどをかなり丁寧に説明していることも特色があり、正直、かなり実践的。話芸経済学者らしく人にいかにイメージを抱きやすいかのように話すというその究極の形態のひとつが、こういうマンガで経済学を説明するということなんだろう。

 日本の多くも経済学をマンガで説明する、というのが簡略化を追求できずに、せっかくマンガにしたのに説明過剰に陥る(日本人の悪い癖で、電車のアナウンスみたいですw)悪弊があるが、本書はそれを徹底的に意識的に排除していて、実にシンプル。

 マクロ経済学もそろそろ原書ででるそうなので、それと合わせて読むべし(といってもバウマンが金融政策をどんな位置づけで考えてるかそれなりに微妙かもしれないけどw

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講