経済を無理なく理解するにはどうしたら?(経済書ブックガイド2017)

 経済問題を最小の時間で、でも基礎学力をつけながら学んでいくにはどうしたらいいのか? 

 1)いいテキスト 2)いい教師(授業、講演などでの出会い)、3)適切な時間配分 4)無理しない

これらのバランスが必要でしょう。ここでは主に1)の「いいテキスト」を紹介していきます。上から下にいくほどレベルアップ。

なんといっても小学生でも読める(でも大人が読んでも面白い)以下の二冊がやはり最も簡単な経済書の地位をいまだにキープしているでしょう。『レモン』の方は経済学の要の市場(しじょう、マーケット)のメカニズムを、『続レモン』は若干レベルアップしててインフレのメカニズムの解説になっています。

新装版 レモンをお金にかえる法

新装版 レモンをお金にかえる法

新装版 続・レモンをお金にかえる法

新装版 続・レモンをお金にかえる法

 この二冊を終えたら、次には、この二冊をミクロ⇒マクロの順で読んでいくことをおススメしたい。内容的には中学生上級レベル。これ以上、簡単でなおかつ面白いテキストはかなり難しい。なによりいいのが著者がきちんとした経済学を専攻している徹底したプロであることだ。

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

 残念ながら日本のわかりやすい経済書の多くはアマチュアが書いたものがほとんどで、わかりやすさの反面、プロだと絶対に外さないものを簡単に無視したり犠牲にしている。典型的には、経済学の基本原理中の基本である比較優位がほとんどの日本のアマチュア(経済を大学院で学んでいない人たち、ニュースキャスター、評論家たち)の書いたテキストは無視しているか、それにさっとふれる程度である。またはそれらにふれてはいるものの、「なんでこんなに細かい話にこだわってるのかな? 無駄な話題が多いな」とか「このタイミングでふれとかないといけないトピックがない」という経済学のセンスに疑問を抱く本が多い。専門家としての訓練は、ただ単に教科書の切りばり的な読解をしていて身につくものではない。そこを誤魔化している入門書や初心者向けの本も多い。見極める目が必要だ。

 その点、上記の二冊はミクロもマクロも基本的な経済学の考え方を、笑いもときに交えてはずさない。

この二冊以外に、日本人が書いた経済学の超入門書を一冊あげたい。これもわかりやくまた廉価で持ち運びも簡単だ。上記の二冊が難しいという人にはこちらの一冊を推奨したい。

 さらに2017年版の今回のブックガイドでは、上記三冊と同じくらい面白く、なおかつ現在の日本の高校生レベルには適切で、通読すれば経済学の考え方に慣れ親しむことができる優れた本として以下の二冊を推奨したい。茂木氏の本は経済の専門家が書いたものではないが、世界史を利用して経済のひとつの見方を提起していて刺激的だ。『経済学大図鑑』は、通常、図鑑は通読するようにはできてないのが常識だが、この本はわかりやすい図表や写真を駆使し、歴史、時論、思想まで包括的に経済学の基礎の基礎が書かれていて、しかも専門家でも喜ぶ?小ネタまで掲載していてこれまた刺激的な勉強になるはずだ。

経済は世界史から学べ!

経済は世界史から学べ!

経済学大図鑑

経済学大図鑑

 経済学にはふだん使いなれない概念が登場して、とまどうことも多いが、そういうときは歴史や具体的な事例で理解をしていった方が理解が速い。この二冊を読めばほぼ高校生のための経済学の知識としては十分だろう。また歴史や小論文対策にもいかせる。冒頭の三冊はこの二冊を読んだあとに余力があれば、取り組むといい。ただ『経済学大図鑑』の方は分厚く持ち運びには不向きなのが残念だ(そのときは以下の3)の組み合わせをおススメする)。

 整理すると、中学上級から高校にかけてのレベルでは、

1)大学で経済系の学部に進む&実際の経済問題を理解する基礎をまずみにつけたい人。
⇒バウマン二冊、飯田

2)高校の他の科目(世界史、小論文対策など)にも活用したい、社会人であれば経済だけではなく歴史や現代を観る幅広い教養を身に着けたい人。
⇒経済学大図鑑、経済は世界史で学べ

3)2)の関心を持っているが、「大図鑑」が重たい。そういう人には、『経済は世界史で学べ』に加えて、以下の二冊の本をおススメする。

経済学とおともだちになろう

経済学とおともだちになろう

経済学者たちの闘い―脱デフレをめぐる論争の歴史

経済学者たちの闘い―脱デフレをめぐる論争の歴史

まだまだ余力があるし、もっと経済学の新しい流れも知りたい、という意欲のある高校生(や経済系以外の大学生、そして経済系以外の学部卒の社会人)には、以下の本がおススメである。もちろん経済系の現役・卒業生にも適切な入門書である。

さて応用編だ。日本の経済、海外の経済、そしてちょっとユニークな経済本を読んでおいて、ミニ知識までしいれたらどうだろうか? 

戦後経済史は嘘ばかり (PHP新書)

戦後経済史は嘘ばかり (PHP新書)

ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネー

夜の経済学 (SPA!BOOKS)

夜の経済学 (SPA!BOOKS)

さらに経済学自体をもっと突き放してみておきたい、と考える「思想」的な人には以下をおススメする。

善と悪の経済学

善と悪の経済学

現代の経済問題は政策の在り方をめぐって議論されている。特に緊縮主義とその逆の景気刺激的な見解との対立は根深い。ここらへんの論点を後者の立場からみた「反緊縮」四部作をあげたい。

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

ゾンビ経済学―死に損ないの5つの経済思想

ゾンビ経済学―死に損ないの5つの経済思想

辞書代わりに手元においておくべき本格的な入門書としては、自習に最適なのはなんといってもマンキューの入門書に尽きる。さらに八田達夫先生のミクロ二冊は経済問題にダイレクトに教科書レベルの知見を適用していて刺激的だろう。

マンキュー入門経済学

マンキュー入門経済学

八田先生の本には以下の簡略本もある。

ミクロ経済学Expressway

ミクロ経済学Expressway

そして現在の経済は国際関係をみておかないとダメだろう。その点で決定版的教科書の新訳がでている(これを書いている段階ではまだ未見だが、原書や邦訳旧版は定評も高くまた翻訳者も信頼できる人達なのでいまから掲示しておく)。

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕下:金融編

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕下:金融編