飯田泰之『思考をみがく経済学』

 本書のようにツールとしての「思考術」的な切り口で書かせると当代きっての書き手、それが飯田さんである。いままでも「思考の型」を強調した著作があったが、今回は経済学と経営学の境界に位置する話題に注目している。

 冒頭では、問題の「分解」の仕方が丁寧に解説されている。よく思うのだが、経済学的思考ももちろんだが、課題一般に対して問題の「分解」の仕方が適切でないために、しばしばひとはとんでもないほどムダな時間を問題解決に要していることがある。本書ではそのムダをできるだけなくすための思考のパターン(型)に注目しているのだ。

 経済学的思考の独特なパターンを知りたいひとは特に第四講の機会費用、サンクコスト、比較優位を扱った部分を熟読してほしい。ここが経済学の一丁目だからだ。

 あと松尾匡さんのリスクと責任の理論を、飯田さんなりに再解釈して、それをリーマンショックと旧共産圏の崩壊とに比較したところは明瞭で面白い。つまりリスクを取る人と意思決定を行う人とがかけ離れることでそれらの危機、抱懐が生じた、つまり教科書的な資本主義の「限界」ではなく、制度の構築ミスによる、という解釈だろう。

 いろんな小ネタであきさせず、また経済学の基礎を持ったひとは短時間で心地いい読書ができるという意味でも、本書の思考の型は効率的なものだろう。

NHKラジオビジネス塾 思考をみがく経済学

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