鈴木一策『マルクスとハムレット』

 個人的には長年待った著作。ローマ・キリスト教文明観と異教的なケルト世界観が同時に伏在するシェイクスピアの作品世界。それを読むことで両者の世界観の中で「悶え」、それがマルクス自身の経済学批判にも影響しているというのが本書の主要テーマだと思う。とても意欲的だし、面白そうだ。

 だが最後半では里山資本主義の唐突な参照などどうもつけたしにしか思えない時論的な展開もありもったいない。また前半でも断定的な記述が多くあり論旨を拾うのに苦痛が伴う。例えば、後半で詳しく展開されるのだが、前半でいきなりマルクスのリービッヒへの対応を断定的に記述している箇所、やはり冒頭近くの本書の主要テーマである『ハムレット』のマルクス引用を論じた箇所(21-25頁)など、記述的な問題で何が書いてあるのかわからない。26頁でも著者自身、「唐突であるが」としてマルクスをマーキュリーにたとえているが、最後までこの意味がわからないままだ。またケルト的世界観との関連を最も深く論述している第六章でもこの唐突な断定癖は治らない。109頁では「ズバリ言って、マルクスは「酔っぱらった野蛮人」が嫌いだった」と理由もなく断定され、この「結論」であとの議論を展開している。このような例は枚挙できないほどあり、著作として雑な印象をどうしても与えてしまう。面白いテーマなのに!

 マルクスシェイクスピアの作品世界を扱った他の著作がいくつかあるのでそれとの比較をしたうえで、この論著の評価も定めてみたいなと思う。いまのままでは残念な気持ちしか残らない。

マルクスとハムレット 〔新しく『資本論』を読む〕

マルクスとハムレット 〔新しく『資本論』を読む〕