富野由悠季『「ガンダム」の家族論』

 僕はガンダムという物語にはあまり新しさ、というか時代を先取りしたものをほとんど感じたことがない。むしろ旧来の価値観に愚鈍なまでにこだわっている物語ではないか、とさえ思う。ただひとつの例外がこのブログでも昔しばしば言及した『ターンエー』だった。あの空気抜けた感じは尋常ではない 笑。

 ただし最近のガンダムのダブルオーをまだ最初しか見てないし、ユニコーンだってアニメは未完なのでなんともいえない。ここでは冨野ガンダムに限定(しかも僕はVとF91は見てない)。

 本書はもろそのような旧来の価値観を前提にして書かれたアニメと富野氏の人生双方の家族観を網羅したものだ。僕はこれは資料的なものとして読んだのだが、冨野氏のファンならば喜んで読むだろう。しかしもし富野氏の本書の発言(コアなファンへの執着心への警告ともいえるもの)をそのままとるならば、そういう「ファン」こそ本書を捨て去るべきであろう。正直、退屈な本なのだから。

 もちろん資料としての価値がある。まず富野氏はアニメを支える「嘘八百のリアリティ」と、設定オタクが陥りがちな「リアル」をわける。後者は一貫して「現実とアニメ」を混同する者とともに批判の対象だ。前者は嘘八百ではあるが、それを支えるのが富野氏の現実に対する価値判断ー本書では家族への考え方ーである。

 その富野氏の家族観が本書の過半なのだが、それは正直読むのが退屈である。もちろん『F91』がそのような家族観を全面に出した試みの最初だとか、『ガンダム』のランバ・ラルとハモンがアムロニュータイプのきっかけになる「夫婦」であるとか、富野氏の“病気”論は興味深い。

 “病気”論とは、アニメが視聴者の狭い自己肯定の心理に迎合するような傾向だという。その表れが『V』だそうだ。先にもいったが見てないので、富野氏は“病気”になる作品なので見てほしくなさそうだが、ますます僕は見たくなったw なぜなら楽しむというよりも、僕はほぼ熱狂的なファンとかマニアではなく(そういうレベルには僕はかなわないし、また勝手にやってろよ、ぐらいの関心しかない)、独自の視点から学術的研究をしたいだけだ。冨野氏もむしろそういう突き放してガンダムを消費したほうが好ましいと思うかもしれない。

 あと『ターンエー』に影響を与えた作品が『平気でうそをつく人たち』というのは結構興味深い。嘘と自己欺瞞こそ僕がガンダムシリーズにいま重きを置いて評価しているものだからだ。

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「ガンダム」の家族論 (ワニブックスPLUS新書)

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