竹中平蔵&高橋洋一『日本経済のシナリオ』

 日本の政策設計(本書でいう“シナリオ”)を多く手掛けてき、また同時に様々な評価にさらされてきたふたりの率直な対談だ。意外といっては変だが、それほど難しい話はせずに、特に中盤はいろいろ脇道にそれたり、まったりした雰囲気さえなぜか漂うのが面白い。

 竹中平蔵氏は自身への批判が三つのパターンがあると解説している。1)とにかく逆のことをいう、2)永遠の真理をいう、3)レッテルを貼る(=「それはアメリカ原理主義だ」「竹中は新自由主義者だ」)。これらの批判には、具体的な対案がまるでないということである。しかも高橋さんによればレッテルを貼る人はその意味をわかってないで使ってることが多いという。僕もたまに疑似ケインジアンとか使うが(笑)、定義をしたうえで利用している。だが確かに竹中氏に限らず、「新自由主義者」というレッテルの中味はどう考えてもすかすかで、ネットでの批判者たちやその家元らしき経済評論家は安易に使っているようだ。

 増税についての両者の認識は共通していて、それは正しいと僕は思う。

「竹中 つまり、歳入を増やすために消費増税をしたのに、増税による景気悪化を歳出増によって手当するという、悪循環がはじまろうとしているのです。 …(自民党の議員たちは…田中補注)むしろ歳出拡大の「おねだり勢力」になっていた。歳出を増やす方向を認めて、そこに乗っかってお金を引き出すことを考え始めている。僕は経済政策について心配しているのは、実はそこです。本当の意味での改革をせずに、「おねだり」の方に走ってしまう可能性がある。それだけは絶対に阻止しないと。国民から税金を集めるだけ集めておいて、おねだり勢力にばら撒くだけになってしまっては元も子もありませんよ」(39-40頁)。

 批判している相手が実際に何をいっているのか、その根拠は何かを問う事のない風潮が特に最近ネット界隈で強まっている。竹中&高橋アレルギーやふたりをみれば脊髄反射的嫌悪感を抱く人たちはまずはこの本を読んでから批判しても遅くはないだろう。

 ちなみに僕の竹中氏への評価についてもブログの検索ボックスに、「竹中平蔵」とワードをいれて検索し、そのエントリーを勉強しておいてほしい。日本の政策論争を考えるときのキーポイントが竹中氏への評価を通じてわかるだろう。ちなみに検索しない可能性が大きいので(笑)、以下に代表的なエントリーをあげておいたので参照されたい。

関連エントリー
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若田部昌澄「日本における構造改革ーある知性史ー」in経済学史学会(立教大学http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20140524#p2
中野剛志「「新自由主義」という妖怪」(『WiLL』12月号)を読むhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20131107#p2
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竹中平蔵『闘う経済学』http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080825#p2
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