盛山氏は日本経済を四重苦に陥っているとする。デフレ不況、財政難、国の債務残高、少子化である。本書はこれらの四つの問題の関連、そして盛山氏の政策的論点への独自の解釈によって過半が埋められている。正直、細部には疑問もある。だがそんな細部への注目はおよそ政策議論では大した問題ではない。ただ円高とマクロ経済の関連を長期的に問題視した業績は、武者陵司氏の著作ではなく、そのはるか以前に公表されていた浜田宏一先生と岡田靖さんの論文、安達誠司さんの著作(『円の足枷』など)、僕と安達さんの『平成大停滞』、岩田規久男先生の『国際金融論入門』『デフレと超円高』などがあるのでそちらを言及されるべきではないかと思う。
さてそういう細部はどうでもよく、盛山氏の四重苦脱出のシナリオは下のものだ。
「四重苦を抜け出して、持続的な成長の軌道を確立することは不可能なことではない。それは、一次的な国債の増発をともない財政の拡大と金融の量的緩和から始まり、さらに消費税を引き上げて税収基盤を整え、国債依存を減らしていく。その間、拡大した財政基盤から積極的な未来への投資を展開していく」。
この方針でひとつのシミュレーションを提起している。そのシミュレーションはシミュレーションにすぎないが、非常に具体的なイメージを持つ。盛山氏は以下のことは「ほぼ確実だ」という。
(1)基本的に消費増税なしに、必要な政策的経費をまかないつつ、プライマリー・バランスの改善を図ることは不可能だ。
(2)しかし消費増税だけでも不十分で、経済全体を早期に4%程度の名目成長率の軌道にのせ、成長による税収増を図らなければならない。
(3)とはいえ、リーマンショックと大震災によって落ち込んだ経済の体力を考えれば、今すぐの増税は不適切だ
(4)したがつて、一時的には国債を増発して、積極的な金融の量的緩和と財政支出拡大を組み合わせた「デフレ脱却政策」が必要だ。
(1)が必要かどうかはそれ以降の(2)から(4)が達成されたときに改めて議論すればいいとは思うが、というかその時点でこそ本格的な構造改革の議論が起きているはずだ。
盛山氏の著作はその年金問題などの解釈とともにこれからも参照すべきものを持っていると思う。

経済成長は不可能なのか - 少子化と財政難を克服する条件 (中公新書)
- 作者: 盛山和夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/06/24
- メディア: 新書
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