白川日銀総裁の日本金融学会での講演に関する記事を読むと、彼も一国の総裁なのだからその発言がどのように報道されるか、一般の公衆にどのように受け取られるのかを十分に知っているだろう。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21412920110528
これを読むといまの日本があたかもその額の多寡によらず、日本銀行の国債の直接引き受けで、通貨の信認が低下し、財政破綻的な状況に落ち込むと確言していることになる。もしこのような発言を他の政府内の政策担当者が発言すれば、それは進退にさえ直結する可能性がある。なぜならば、講演の中で白川氏が自らいっている。
「通貨や金融システムの信認は相互依存の関係にある。信認は空気のような存在で平時は誰もその存在を疑わないが、信認を守る努力を払わなければ、非連続的に変化し得る。そして、一旦、信認が崩れると、経済に与える影響は計り知れない」
この「非連続的に変化」を引き起こす第一の引き金は、通貨の番人たる人物がこのような「通貨の信認の低下」を軽々しく唱えることによってひきおこされかねない。オオカミ少年よりも悪質な行為であるか、あるいは単に(大した政治的な圧力のない現状での暴発気味での)愚か者の行為である。心ある政治家はすぐにこの総裁を喚問すべきでさえある。
まさにこの総裁の発言そのものが通貨の信認低下の引き金をひく可能性が大きいからだ。
戦後のハイパーインフレーション(定義にもよるが実情は「激しいインフレ」である)の歴史を紐解けばわかるが、人々が「通貨の信認低下」を信用し、パニック的な現象に陥ったのは、大内兵衛のラジオ講話などがきっかけであった。この当時の状況を石橋湛山は以下のように解説している。
「私は昭和20年の終戦直後、内外の情勢から推断し、日本には激しいインフレを発生するごとき外力の圧迫が起こる危険はないと予言した。ところがその頃の日本の多くの学者、評論家はほとんど一致して(あるいは今日でも同様であるかもしれぬが)あらゆる悲観材料を数え上げて、インフレ必至論を高唱宣布した。後にもいうが、終戦後の日本にインフレ傾向を促進した最も有力な原因は実はこれらの悲観論であったというても、過言であるまい」(『戦後日本のインフレーション』)。
戦後の激しいインフレ期待は、このようなインフレを過度に警戒し、それを扇動した学者や評論家によってかなりの部分がもたらされた。それを現代の日本では白川方明総裁自身が行っている。まさに本人は通貨の番人を気取っているかもしれないが、この発言はむしろ将来的に通貨の信認の低下そのものをもたらす引き金になる可能性が大きい。まさに日本経済最大の危険人物だといって差し支えない。