いま、会いにいけますーアイドル市場の変容とアイドル分析本戦国時代(笑)ー

 『グループアイドル進化論』(岡島紳士+岡田康弘)を編集の方から頂戴しました。ありがとうございます。このほかにもほとんど同じ題名のような筑摩書房から太田省一氏の『アイドル進化論』も出た。後者はまだ立ち読み程度だが、前者の『グループアイドル進化論』は70年代からのアイドル市場の変遷や、また最近のライブアイドル(地下アイドルもこれに近い)の流れを直近までほりさげているところも特色である。またポストAKB48としてももいろクローバーに特に注目しているようだ。またいしたにまさき&福嶋麻衣子両氏の『日本の若者は不幸じゃない』もやはりライブアイドル論として読むことが可能である。もちろんここでもとりあげたサエキけんぞう編著『W100 LIVEアイドル』もこのアイドル市場の暫定的カタログとして現在機能していて便利だ。

 これらの本の特徴をあえて一言でいえば、「ヴァーチャルではなく生身の(or至近距離の)接触が価値をもつこと」だ。しかもこの生身の接触を支援するツールとして、Twitterや携帯サイトなどネットのコミュニティやネットワークが重要な位置を占めてくる。

 生身(=ライブや握手会などのイベント)とヴァーチャル(ネットのコミュニケーション)が、アイドルたちの経済的な価値を決定していく。このモデルには、テレビなどの旧来メディアやCD販売は、そこで注目されたり、また売れればいいにこしたことはないが、必ずしもアイドルの持続可能性の必要条件とはいえない。

 このような生身(=ライブ)が音楽市場の中心になってきたことは、文化の経済学ではかなり前から指摘されていた。例えばこのブログでも、津田大介&内村憲一氏らの『未来型サバイバル音楽論』をとりあげたときに以下のように書いたことがある。

http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20101114#p4

文化の経済学やコンテンツ産業論などでは早くから注目されてきたのが、CDの売上低迷、デジタル配信の緩やかな成長と質的変容、そしてライブでの収益や副次的なプロダクツの売上への依存である。津田さんたちの本では日本ではゼロ年代になってから加速したらしいが、米国などでは90年代から先駆してみられてきた。実際に90年代からのコンサートの単価は上昇トレンドにある。
 日本もこの世界的な流れにゼロ年代から加速度的に傾斜してきたといえる。CDの売上減少については一時期、デジタル情報としての私的コピーが問題になったが、実証的には否定的な結論もある。むしろCDの販売減少の可能性としては、1)音楽配信チャンネルの多様化が貢献。2)若年人口の減少、3)代替的なレジャーとの競争 などが提起されてきた。津田さんたちの本では特に1)に焦点をあてているといえる。

中略

第5章はまた対談に戻り、いままでの復習をかねて、CDの売上低下やフェスブームについて議論を重ねている。それを読んでの僕の感想は、やはり人はリアルなつながりを求めていることだ。それが音楽であれ、なんであれ。それが商売になり、多くの才能ある人たちの飛躍につながるならばそれはなおさら素晴らしいだろう。

 初めに列記したアイドル市場分析本はすべてこの問題圏内に入るといえるだろう。今後のアイドル市場は「いま、会いにいけます」型の市場がどのように今後変容していくか、そして海外の市場展開を含んだ、グローバルとローカルが錯綜した複雑な市場分析を必要としていくに違いない。

 とても面白い分野だと思う。

アイドル進化論 南沙織から初音ミク、AKB48まで(双書Zero)

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日本の若者は不幸じゃない (ソフトバンク新書)

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AKB48の経済学

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