山下 雅之『フランスのマンガ』

 ちょっとこれは……COEが漫画に多額の研究資金を投じたときから懸念しましたが、政府の予算配分の歪みが生み出したきわめてセンスに乏しい書籍に思えます。


 ただ類書が日本にないので重宝されるでしょう。でも、これが日本のBD(フランスマンガ)の標準として参照されるならば、それこそ日本のBD研究に歪みを与えるでしょうね。読んでてなんか僕より相当古い世代の人のフランスマンガの断片的な紹介に思えたし、後半は日本マンガのフランスへの影響を、マーケット側もふくめて書いているけど、問題意識が乏しいの風景観察的記述の羅列でしかない(少なくともユリイカ『マンガ批評の最前線』の小田切論文などを参照すべき)。


 紹介レベルではいえば、mixiのBD研究会の過去ログにはるかに及ばず、また研究レベルにはまったく到達していない。こんな中途半端なものがでてしまうのが、文科省の予算でなんとなく大学の先生が研究して、この手の本を出してしまう、というまさに懸念されたことの表れでしょう。まあ、この本を弁護するかどうかでその人の立ち位置とか批評レベルの水準もわかるでしょうね。

 ちなみに同時に購入した竹内オサム氏の『本流! マンガ学』は、日本のマンガ批評のお仲間意識の露骨さへの警鐘として非常に参考になる。たぶん竹内氏の批判の延長に、(児童文学館ネタ以外で)僕の『マンガ論争勃発2』でのインタビューの位置取りもくるかも。ともかく日本のマンガ研究者の身内意識と商売至上主義やアカデミズムブローカーの横行には本当に辟易。

フランスのマンガ

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