東京へのオリンピック誘致と東京都紙幣


 本日の朝日新聞一面にコメント。


 例えば、都がオリンピックの需要誘発効果をそんなに期待したいのならば(つまり景気刺激をそんなに重視するならば)、オリンピックの採択の結果を待たないで、景気刺激の観点からは、今度の議会にアービング・フィッシャー流の日付け貨幣(Stamp Script)でも提案したらどうでしょうか。規模は設計次第ですが、どうせ挑戦精神がないでしょうから(オリンピック精神はあるのでしょうか?)5000億円程度ぐらいでいいでしょう。要するに地方版の政府紙幣です。法的な問題は解決可能でしょう。

 フィッシャーは『リフレーションの基礎理論』(After Reflation,What? の戦前出た邦題)の中にリフレーション政策(不況脱出の需要刺激策)として、地方において当時実験されていた日付け貨幣に注目して次のように書いています。

 以下、昭和9年に出た翻訳(日本評論社、大岩鉱編訳)が手元にあるのでほぼそのまま引用。

 「(取引…田中補)速度を早める目的の為めに最近欧米の或都市では、特にこの目的の為めに考案された新規な形態の通貨を実験している。之は日付貨幣(スタンプ・スクリップ)として知られるものである。都市はその吏員及び主要商人の同意を得て、市の費用及び他の債務(慈善をも含む)の支払いに際してスタンプ・スクリップを発行する。この証券は大抵の場合一ドルの名称を帯びている。都市は一年の期間経過後に、之を法貨と兌換することを承認する。期間中は、この証券は之が受領に同意した市民間に手から手へと転戦する。今その同意条件の一を示すと、水曜日にこのスクリップを手に入れたものは、特別に案出された市発売の2セント印紙を貼付するまでは、之を再び取引に供するを得ない。そしてその年の五十二の水曜日の各々のために、スクリップの裏に印紙貼付のための空白がある、前水曜日の印紙の貼付を遅滞しておれば、このスタンプ・スクリップは、いかなる場合を問わず、譲渡され得ない。それ故に何人も毎週水曜日の前にそのスタンプ・スクリップを手放す事を急ぎ、以って印紙代を避けようとする」。


「その年の終りには、市はその五十二印紙の売上金を使用してスタンプ・スクリップを償却する。各1ドルのスタンプ・スクリップに対する総印紙は1ドル4セントに達する。期間中、印紙は遅滞に対する罰金の役割を果たしている。印紙はまた退蔵に対する一種の印紙税ともなっているのであるが、一個人の出資は些細である。なんとなれば、証券が迅速に転々すればするほど、1ドル4千との印紙税が割り当てられる所持人の頭数は増加するからである」。

 これを読むとばら撒きよりも希望者にスタンプ・スクリップを配るほうがいいでしょう。日本だと額面は1万円でいいでしょうか。投資にも使える設計だとすれば高額のものを用意してもいいのではないでしょうか。

スタンプ・スクリップは、その超速度のゆえに、少額に限って発行される。スタンプ・スクリップは消費に使われるとともに、もちろん投資され、また銀行に預けられる」

 「これは最初不景気における一方便として用いられた、そしてその究極の有用性は、その量や、速度にすらあるのではなく、むしろ死せる信用通貨に及ぼす究極的効果にあるのである。これは、いわば、信用通貨のポンプに「迎え水」を送るのである。というのは、不況時においては、事業家は銀行に眷顧する事を恐れるようになる、しかし彼らは顧客がやってくるのをみれば、銀行に走るように元気づけられ、或いは強制さえもされる、かくして国内の信用通貨と正常速度とを回復する、スクリップの役割は事業家に、顧客のやってくる光景をみせてやる事である」

「地方的に(そして正しく)用いられるならば、スタンプ・スクリップは一定の制限をもつが、試験済みの有用性をもっている。それは地方の取引量を増大する。しかし物価水準に影響する(=デフレからインフレにする…田中補)ためには、それは連邦政府に採用され、暫定的法貨の地位にまで昇格されねばならない」。

 このフイッシャーの『リフレーションの基礎理論』はリフレのアイディアと当時のルーズベルトの33年当時の政策評価などが連動していて、非常に有益で実践的な本ですね。古書で手にはいりやすいほうだと思うので見かけたら入手をおススメします。