麻生総裁、消費税議論三年据え置きの「三年」の根拠、望ましい財政政策とは?

 麻生首相(予定)の演説要旨がロイターなどのネットで読めます。
 http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33880120080922

 久しぶりに、というかやっとというか、景気対策を全面に出した首相の誕生は素朴には嬉しいことです。やはり上げ潮派とか構造改革派の意見はどうみてもリフレは政治的には「いってるだけ」のものでしたので蜃気楼からようやく出たかのような気持ちは確かにします。

 とはいってもこれも政治が額面と実態が違い、さらに実態と実効さえも違うという複雑怪奇なところがあるわけで、かの小泉政権後期における円安介入がかなりなリフレ効果を持ったことで日本経済は救われたことも事実です。

 さて実効面はもちろんまだわかりませんし、実態面もこれからなのですが、少なくとも現時点の額面では麻生氏はなかなかいいことをいっています。

 まず名目成長率を意識し、それが高いほどいいというニュアンスを込めていること

 「名目成長が2%程度。3%ぐらいいけば最高。そうしたものがある程度続き、経営者が設備投資をしても大丈夫、消費者が消費をしてもいいとなってからでないと、うかつに上げると(消費税を5%に引き上げ、経済失速を招いた橋本政権の)二の舞になりかねない」

 僕はもちろん4,5%でもいいと思っています(スティグリッツだとさらに上かも)が、明示的に名目成長率を意識するのはいままで首相の発言として出てこなかった(でても付けたし程度)だけに好ましいですね。

 ただ現時点の総合経済対策の中味についてはこのブログで書いたとおり、現状ではほとんど効果が期待できないでしょう。また財政政策だけに傾斜し、金融政策は事実上の引締め基調(HMを引締め、利上げにむけて(現状でさえも!)絶えず地均しする日銀スタンダード)ということですと事実上、名目成長率はほとんど現状とかわらないのではないか、と思います。政策の目的(景気の安定化)は素晴しいのですが、問題はその手段ということですね。

 また「全治三年間」というのも理屈はたぶん財務省的発想かな、と思います。例のプライマリーバランスの11年度黒字化を棚上げという発想から来ただけで、景気の安定が本当に三年で成し遂げられる、という見込みからでてきた「三年」ではなく、あくまでお役所的な計算がいわせた「三年」なところがなんともはや悲しみを募らせます。

 まあ、そうとはいえ気分を変えて前向きに考えてみまして、現時点の制約(財政政策「だけ」考える)の中で麻生首相に最も期待していいリフレ的政策(名目経済成長率達成)の内実は、フェルドシュタイン流の財政政策ではないか、と思います。以下は2001年に書かれたものであることを念頭に置いてください。

Japan Needs To Stimulate Spending By Martin Feldstein
 http://www.nber.org/feldstein/wj071601.html

:The government could also temporarily suspend the value added tax, which is currently 5%, and announce that the tax will return at a 10% rate in the middle of 2003. Consumers would have a strong incentive to spend now, especially on consumer durables, because of the resulting 10% price rise that will occur in 2003. In effect, the Ministry of Finance could achieve a temporary 5% annual inflation for the next two years instead of assigning to the Bank of Japan the impossible task of using monetary policy to reverse the current negative inflation rate.:

 例えば高橋洋一案の埋蔵金(09年度は10兆円近く利用可能)をうまく利用すれば、消費税をゼロにすることさえ09年度は可能かもしれません。10年度にまたもとの5%に戻す、ということにすれば上記のフェルドシュタイン案とさほど変わらないでしょう。このニュースソースだと麻生氏は埋蔵金利用に前向きみたいに思えますがどうなんでしょうか?http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080923-00000072-san-bus_all(記事では財源の裏づけがない、という評価ですが、それこそ理由を明示せずに埋蔵金の存在を無視しているということで変な解説記事といえます)。

 それと上記の消費税ゼロにして1年後に急増という戦略はわりとネットでも有名なのですが、次の団塊の世代を含む前後の「強欲世代」の欲望を刺激する政策はかなり「使える」と僕は思います。もちろん「使える」のとそれがもたらす世代対立効果とでもいうべきもの(若い世代への教育投資などの一層の削減など)が顕著になる懸念はあるでしょう。

:A different way to encourage household spending is to reduce the uncertainty about government pension benefits. The rapid aging of the population in Japan has caused the Japanese government to warn that it will not be able to continue to pay the benefits specified in current law. Fearing the worst and wanting to protect themselves, many households are probably saving substantially more than they will need to compensate for the actual benefit cuts that will occur.

If those who are currently retired were told that their benefits would not be cut, they would feel free to spend more of their current income and assets. And if employees between 55 and 65 were told that their benefits would not be less than (say) 90% of the amount projected under current law, they too might increase their spending. Continued uncertainty about pension policy serves only to depress spending.:

 まあ、正直なこというと、財政政策「だけ」でああでもないこうでもないと工夫するのはストレスだけ高まることなのは間違いないです 苦笑。

 望ましい財政政策とは? →http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080910#p1