野口さんの新刊。そろそろ野口さんたちとの共著も出るぽい。
- 作者: 野口旭
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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同じちくま新書の『経済対立は誰が起すのか』の事実上の00年代のニューヴァージョンであり、前作もそうだが今作も経済学の基本的な知識をしっかり解説しながら、その専門知という「狭い立脚点」から合理的に「グローバル資本主義の危機」「ハゲタカファンド」「貿易不均衡は悪、いや善だ」などなどの通俗的な国際経済理解や、「産業政策」「戦略的貿易論」「幼稚産業保護論」「アジア通貨圏構想」といったよりアカデミックな議論に対しても批判的な検討を加えている。
個人的に最も関心を引かれたのは、(玄人好みですまそだが)赤松要の雁行形態論をヘクシャー・オリーン(HO)モデル*1で理論的に見通しよく理論的基礎を提示したところ。
(以下は注もよく読んでほしいが)雁行形態論は、一国の産業の盛衰パターンを描いたもの*2であるが、それはHOモデルの特徴である各国における生産要素の存在量比率、各国の要素集約性という概念によって簡単に説明できることが本書で書かれていて、現在の多くの東アジアの経済発展論の実証的基礎である雁行形態論にすっきりした理論的見通しを与えています。
例えば、開発途上国のほとんどは当初、労働が豊富。ゆえに繊維産業などの労働集約的な産業に比較優位をもつ。そのうち資本の蓄積がすすみ資本豊富国になる(=要素賦存比率の変化という)、すると今度は資本集約的な産業が比較優位をもつ、従来の労働集約的な産業は衰退産業になる……。
またハイテク産業に顕著なように、その産業の技術的な特性も変化する(=要素集約性の変化)。例えばハイテク製品などの成熟段階では標準化、モジュール化、生産工程の分割化などの生産コストの削減などを想起されたい。それまでその財の技術について豊富な蓄積のあった国(日本やアメリカ)がその財に比較優位をもっていても、成熟化の進展によって標準化・モジュール化によりコスト削減に関心が移り、このことが非熟練労働の集約性を高めて、生産工程の一部がアジアに移転することがある、このことでもそのハイテク製品の要素集約性が変化することで一国の産業の発展衰退という雁行形態の説明のロジックを補うことになる*3。
その他に個人的にはやはり産業政策まわりが興味をひくところでして、幼稚産業保護についても、一時的に比較劣位財の価格を高めることで国民の厚生を悪化させる効果しかない、とばっさり。産業政策も幼稚産業保護政策の一変種としていまも扱われているだけにその意味でもこの種の産業政策論の退路を断っています。
経済学の基礎を知らなくても最初から無理なく読める構成になっていて、実際の新聞記事も利用するなど工夫もされていますので、前著より格段に読みやすく刺激的なものです。超おススメ
*1:各国は相対的に自国に豊富に存在する生産要素を集約的に使用する財に比較優位をもつ
*2:新製品が国内市場に登場、国内生産は開始されず技術導入の時代+外国からの輸入増加 → 国内市場拡大、国内生産開始、国内生産>国内需要になる輸出増加 → 国内需要は鈍化、輸出拡大での国内生産増加 → 後発国との競合で輸出成長率鈍化、国内生産減少 → 海外製品の国内輸入が増加、国内生産の顕著な減少 んという一連のシナリオ
*3:このHOモデルをつかった雁行形態論の説明は実は相当にえぐいことをしている。なぜならいまでも多くの日本の開発経済学者たちはこの雁行形態論を日本独自の代替的理論だと思っているが、それが経済学の標準装備のHOから説明できてしまうことになるわけだ。ちなみに雁行形態論の始祖である赤松要は福田徳三の弟子でもあり、僕も個人的に非常に興味を抱いている