抑止力がかえって攻撃目標の高度化を生み出す


 ロベルタ・ウールステッターの『パールハーバー』(読売新聞社)に収録されているトマス・シェリングの序文にこのエントリー題の趣旨を含む発言がある。抑止力は攻撃目標の高度化を招き、さらに相手方からの情報を解釈する手法が貧困なために真珠湾奇襲を招いてしまった。シェリングもこの本の著者のウールステッターもともに真珠湾奇襲は、米国政府の情報伝達・解釈能力の貧困にその原因を求めている。ルーズベルトの陰謀もなければ、日本の参戦自体もアメリカ側と日本側双方(特に本書は前者に力点を置くが)の情報処理能力の欠如という「車の轍」に双方の国民がはまり込んだ結果である、と書いている。シェリングであれば情報処理能力の欠如を回避する手段として、両者のコミュニケーションの場の設定が重要だという指摘になるのだろう。

 アマゾンでの各種真珠湾ものではこの本はほとんど無視されているようだけれども、ノージックが『アナーキー・国家・ユートピア』でわざわざ紹介していたように名著だと思う。ちなみにアマゾンは在庫なしだが……。


 最近、北朝鮮を仮想敵国として(たぶん六カ国協議を脱退して)核武装の議論をすべし、という議論もあるけれども(小林よしのり氏か西部邁氏かソースは良く知らないけれども)、その種の議論に対して本書は反論の一根拠を提供しているだろう。