日銀総裁会見要旨の感想

 http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0704a.pdf(総裁会見要旨)
 前日来の当ブログのエントリーの続きみたいで同じことを繰り返すわけですが、日銀短観楽天的解釈も「生活意識に関するアンケート調査」における物価上昇見込み減少の過小評価も、基本的には総裁の問答にある「先行きについては、目先、ゼロ%近傍で推移するとみられますが、より長い目でみると、マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていくと予想されます」という認識に収斂していくと思います。




 個人的に注目したいのは、上記のアンケート調査についての物価上昇率予想低下についてコメントする中での理由づけに、雇用の改善と賃金の上昇、それが消費者物価へつながる、ということそして短観へのドッキングという一連の総裁の発言がありました。

:もう一つは、賃金の上昇は極めてマイルドですが、
雇用が着実に伸びており、雇用者所得は緩やかながら増加を続けていくほか、賃
金以外のルートを通ずる企業収益の家計部門への還元も続いていくだろう。配当
所得、あるいはその他のいわゆる財産所得を含めてみていけば、一層そういうこ
とが言えるわけです。こうしたことで、消費は、引き続き底堅く推移していくだ
ろうとの見通しですが、同時に、ユニット・レーバー・コスト(単位当たりの労
働コスト)は、時間をかけてみれば、マイナス幅がさらに小さくなり、いずれプ
ラスに転じていくだろうという情勢を背景にして申し上げています。:


 ところで雇用の改善→雇用者所得上昇→消費増→物価上昇

という総裁の認識は下の彼の発言と必ずしも整合的ではなく、上の楽観的な予測はそれこそもっと「掘り下げて」、独断的に需給ギャップの現状を決めて確証的に上記経路(これを日銀流ダム論といいます)の見通しをつけるよう議論されるべきではなないでしょうか?


;物価と失業率の関係は、グローバ
ル経済が進展する中で一体化していく個々の国民経済において、景気が良くなっ
て失業率が下がることと、物価が上がることとの相対関係が、昔確認されたパター
ン通りであるかどうかは、過去のパターンに比べ最終物価は上がりにくいという
感じが、次第に確認されつつあります。そういう意味で、いわゆるフィリップス・
カーブがフラット化し、過去のパターンに比べ景気に対する物価の感応度が下
がっている可能性が強い、あるいは下がっているのではないかという議論が強
まっています。わが国についても同様であると思っています。しかし、そのよう
に単純に割り切れるのか、あるいはそれが1つのシミュレーションできれいに計
測し尽くすことができるかどうかを判断することは難しいです。
一方、雇用の中
身をみると、グローバル化の競争の中で企業が将来的に競争に打ち勝っていくた
めにはイノベーションが大事であり、イノベーションを実現できるように質の高
い人材を求める傾向が強まっています。言ってみれば労働市場においては、人材
に対する企業の需要との関係で、労働力需給のミスマッチが広がっていく可能性
があると思います。
こうした点で、ある時点からは質の高い労働力の賃金が上が
り、従って物価上昇にも加速がつく可能性があります。全般的に言えるフィリッ
プス・カーブのフラット化の影響と、労働市場におけるミスマッチの存在、拡大
からくる賃金、物価上昇への影響といった様々な要素が交錯して最終的に決まっ
てくると思います。今後の経済の推移を、景気の持続性という点でも、あるいは
物価上昇の可能性という点でも、常にかなり深掘りしながらみていかなければな
らないと申し上げているのは、そういう意味です。


 ところでこの上の発言自体には要するにいろんな「掘り下げ」必要なわけわからないろんな構造的要因があるから「雇用の改善→雇用者所得上昇→消費増→物価上昇」という日銀流ダム論は成立しないかもしれない=政策判断の転換や責任逃れに将来つかうからよろしくね、とでも理解すればいいのでしょうか? 笑。