厨房経済論戦、海(太平洋と下関海峡)を渡る


許せ、(締め切り迫る)ソフトバンクw ついに昨日の夜中に気が付いちゃたのよ、厨房経済論戦やってるのをw


 先にいいわけ、ぜんぜん経緯わかりません。数日前予告したITOKさんがいま基礎資料作成中の池田信夫dankogai研究*1読んでる過程でようやく数時間前に気が付きまして、以下の池田氏のエントリー松尾さん山形さんの海外三人組みのお便りしかみてません。つまり当初のエントリーやコメント欄などはまったく見てません。すみませんすみません。



 それをお断りしまして、もっぱら議論を池田氏の直近のエントリーhttp://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/da4a4e6c3d49221f8b9e2887069fc623に絞ります。で、これは結論的に山形さんのガーナでの調査の影響を考えると私は山形さんのいうこともフォローできそうな気がします。


で、池田氏がこだわるのは以下の部分(山形さんの発言の池田氏の引用)のようですね。

<賃金水準は、絶対的な生産性*2で決まるんじゃない。その社会の平均的な生産性で決まるんだ。>


例えばこの引用でいう賃金水準は均衡賃金水準でしょうね。他のエントリー読んでないし、松尾さんの話はわかるんですが、ここはこの部分的な文句から勝手に妄想膨らましますよw

 
 池田氏の賃金の限界生産力説みたいなことをいいたそうな見解はなんとなくわかります(池田氏の発言が曖昧なので実はよくは……)。ところが山形さんのいうように社会の選ぶ平均生産性によって均衡賃金水準や均衡雇用量は大きな影響を受ける見方もあるんじゃないでしょうか。しかも絶対的な生産性ではなく(社会の環境に応じる)相対的な生産性で。


 いま賃金水準によって生産性が影響をうけると仮定します。すると賃金の多寡に応じて異なる平均生産性曲線が引けるでしょう*3。賃金がおおいほど平均生産性曲線はそれよりも賃金水準が低い平均生産性曲線よりも上位に来ます。図的には横軸に人数、垂直軸に平均生産性。ドヘタなので他の図はスキャナが壊れてるので携帯写真コピペ



このように生産性に賃金水準が影響を与えることを効率賃金仮説(の雛形)といいます。


で、個々の平均生産曲線から個々の賃金水準に対応した限界生産曲線が導出されます。


いま個々の賃金水準に対応した限界生産曲線が、横軸:人数、縦軸:賃金ないし限界生産物 として以下のように描ける(MP1、MP2など)。



ところで平均生産曲線の形状からあまりに低い賃金だと極端に低い平均生産物と限界生産物の組合せしかもたらさない。


 そこで企業家はより高い賃金を支払って労働者に努力を促し、より高い平均生産曲線と限界生産曲線の組合せにシフトする。もちろんそのとき企業家が選んだ賃金(均衡賃金)は彼の利潤を最大化する労働者の努力をもたらす限界生産性(と平均生産性)との組合せであって、これが完全雇用を保証する均衡賃金ではむろんない*4


例えば下の図を使ってこのことを詳しくみておこう。図ではe1やe2、e3、e4は、企業が各々の限界生産曲線に直面した際の利潤最大化をするために選んだ賃金と人数の組合せだとする(各限界生産曲線からこの組合せは一組づつ選ばれるとする)。


 この最適な組合せを結んだ軌跡は、この効率賃金仮説の労働需要曲線モドキOEである。もちろんこの無数にある賃金=限界生産物ー人数の軌跡(労働需要曲線モドキ)から企業が選ぶのはただ一点だとしよう。いいかえると企業は単一の限界生産曲線(裏面では平均生産曲線)を限界生産曲線群(平均生産曲線群)の中から選び出す、といいかえても別にいいだろう。図でそれがe2ならば労働供給曲線SSと交わるので完全雇用が成立する。しかしこの物語では、平均生産性の大きさの差異がものをいう世界であった。



 この平均生産性の差異がものをいうことを別な局面からみてみよう。それが下の図である。この図では企業が直面している平均生産曲線群に対応した純収入曲線群が描かれている。完全雇用をもたらす純収入曲線はFRであるが、この話の前提から純収入曲線ORの方がより大きな純収入を企業にもたらすだろう。いういかえるとこの企業は完全雇用水準に対応する賃金よりも大きな賃金を払うだろう。するとこれは完全雇用を保証しない、失業が存在することになる。


 もちろん企業家が決めるのではなく、制度や公平性が決めるという話にもっててもいいが、各賃金水準ごとに平均生産性と限界生産性のプロファイルが描けるという前提が重要なことは変わらない。


 だから池田氏のいうように平均生産性が(均衡)賃金を決めないというのはいいすぎではなかろうか。社会的な平均生産性の違い(相対的な生産性の違い)が賃金決定に大きな差異をもたらすこともあるでしょうよ。


 さらにガーナの現状はよく知らないんだけれども、制度的な選択によって賃金格差やなんかもこれから導出できますね。いろんな産業間の賃金格差(平均生産性の差異に由来するのはひつこくネット的に書いとくけどw)も説明することは上のシナリオから容易でしょう。というか山形さんがガーナにいるからこそこの話はより信憑性を増しますね。だって社会の環境(栄養状態だとかさまざまなインフラだとか)によって生産性の相対性が問題(経済格差や失業など)になっちゃうケースはまさに開発途上国の問題ですよね。あと松尾さんのまとめの「ある産業での国際的な所得格差は、その産業の国際的な生産性格差に起因するものではない」というのとも両立するように思える(まだちょびっと考えてるけど)。なぜならこの産業の所得は、産業の国際的な生産性格差というよりもこの産業が直面している平均生産曲線群によって規定されるわけであるから。



 だからちょっとエントリーの題名がふざけすぎたが 開発途上国の問題を考えたときには、山形さんの発言はすげえ大切なんだよ! これが結論。


なお効率賃金仮説自体はその後もっと洗練されてますが趣味をかねて敢えてライベンシュタインヴァージョン(『経済的後進性と経済成長』による)を採用。


繰り返しますが、ソフトバンク様、原稿落としそうです 業務言い訳終わり

(補遺)眠くてちょこまかちょこまか修正したけど許してください菜。図の出典はライベンシュタイン『経済的後進性と経済成長』(昭和35年農林水産業生産性向上会議、矢野勇訳)です。


(補遺2)はてブみたら以下のコメントが
<2007年02月20日 sirouto2 2経済 効率賃金説で賃金の下方硬直性を説明してもいいんだけど、限界生産の要素は依然としてあります>
山形さんの主張は社会の平均生産性で賃金が決まる、という話(と当ブログではネタ的に解釈している)なだけで、賃金の下方硬直性も限界要素の否定?も関係ない論点ですよ。関係ない論点なんで賃金が社会の平均生産性に左右されるという話に両方の話題が入っててもなんの問題もありません。誤解なきように。

(補遺3)意見があればコメント欄でお願いします。特に意見の修正をされると、はてブだと上のコメントの履歴が消えるので。

<2007年02月20日 sirouto2 2経済効率賃金説で賃金の下方硬直性を説明してもいいですが、元の議論の「平均生産性」の大雑把な話とは別です。>

 繰り返しますが、平均生産性と賃金の関係をみたいだけで、賃金の下方硬直性が問題ではなありません(本来ならゴードンコメントと松尾さんのコメントでこの問題は終了なのですが、池田氏が納得しないようなのであえてこの賃金と社会的な平均生産性にダイレクトにかかわるモデルを持ち出しました。賃金の下方硬直性は論点ではないので、この話にあってもなくてもよい話題です。もしそこにこだわるならあなたの誤読です)。もともと「平均生産性」の大雑把な話を、山形さん自身、池田氏ですら、さらにはゴードン、松尾さん、僕も大雑把でなく、より詳細に説明している試みですから、あなたが元々の話が大雑把といったからといって何をそれでいいたいのか理解できません。私見ですが訂正前のコメントの方がまだ意味がとれました。

*1:wが一万個。ITOKさんとフルタヌキさんが協力してくれたのでエンタメの方で公開予定

*2:池田氏の注釈だと山形さんはこれを限界生産性と解釈しているということですがむしろ以下で書くようにそのまんま東で採用しちゃいましょうw

*3:つまり絶対的な生産性ではなく、賃金水準に応じて“相対的”な生産性が決まるといっていいw

*4:労働供給側は、所得効果と代替効果の作用が打ち消しあって、図上ではSS曲線として垂直に描かれる