ギザワロス 仲正昌樹『ネット時代の反論術』


 傑作。僕のようなタイプも批判の対象(152頁)ですがw これは面白い。今年度こんなに面白いと思ったのは、『誘惑される意志』、『脱デフレの経済分析』ぐらい。まあ、もちろん読み手を選びまくる本であることは確か。


ネット時代の反論術 (文春新書)

ネット時代の反論術 (文春新書)


 本作は主調音はブログの「論争」にかなり否定的に読める。ブログの論争術というよりも2ちゃんねるあたりで実名を煽られた人が、匿名になって掲示板でムキになって「反論」する際のすべを紹介していると読んだほうがぼくにはわかりやすかった(いや、著者がそういう経験を豊富にお持ちとは著書にもぼくの脳内にもないので誤解ないように、念為)。仲正さんは掲示板では煽られてますが、ご自分でブログの経験はないですよね? 著者のブログ「経験」の不足と2ちゃんねるでの煽りの豊富さに比例した内容といえるかもしれない。


 まあ、経験すればいいってもんじゃないし、やはりできるだけやめといたほうがいいけどさ、それでもぼく自身はブログの「論争」で得たものもかなりある。失ったものは計量化すると怖いのでその点は双曲線的に割り引きますがw。まだ、現時点で僕はブログを続けている(次の瞬間にやめるかもしれんけどw)ので楽しいからやっているわけで、仲正さんの主張に欠けているものを見つけるとしたら、やはりブログで得るものの愉楽かな(双曲線的に割り引いてる可能性高いけどね)。


 それと先に紹介しておくけど、本田由紀さんへの批判(と安易に「批判」と書くと著者に「批判」されるかもしれないがw)も的確なものでした(79-80頁)。本田さんの「犠牲者トーク」(=若者は雇用制度の構造的問題の犠牲者である)は、「そういう言い方をすることによって、たぶんフリーターや“ニート”の若者、あるいは彼らに同情する人たちを「味方」と想定し、アピールしているのでしょう。でも若者の全てが、そういう本田さんの犠牲者トークに共感するはずはありません。自分は一生懸命やっているけど、周りにはほんとうに自業自得でニートになっているやつが多い、ああいうのと一緒に犠牲者扱いするな、と思う子だっているでしょう。問題は自分がどちらを味方にしたいかです。それを理解しないで、闇雲に「○○はみな犠牲者だ」と言ったら、味方にしたい人たちが逆に敵に回ってしまうかもしれません」。


 ただ本田さんの「犠牲者トーク」の有効性も侮りがたく、むしろぼくの率直な意見では彼女はかなりの戦略家なわけで仲正さんの批判もすでに十分折込ずみだと思う。たとえば「犠牲者トーク」には「自分は一生懸命やっている」のにフリーターやニートになっている人が含まれているのか、と彼女は問われれば明確に「ノー」というでしょう。そのための『ニートって言うな』の玄田流ニート批判であったし、マクロ経済政策の効果も「わかったべ」論だったはず(とこれも説明しとかんと過去の経緯みんな忘れたり追わなかったりしてるよね、そうですか、はいそうですねw)。しかしこれが本当に「わかったべ」ではなかったことを「中年しゃべり場論争」は解き明かしたはずだし、遅れて申し訳なかったけど制度的な方面から批判したのが本ブログの「ニート利権」エントリーなわけです。


 で、その過程でブログ上で起こったのは(見聞するかぎり)、「味方にしたい人たちが逆に敵に回ってしまうかもしれません」という事態ではなく、仲正さんの状況設定=「論争」でもなく、本田ブログをみるかぎりでは、華麗にスルーと彼女への声援の宴だったはずでは? そして華麗にスルーの最終兵器が本田ブログのプライベートモード移行じゃないのかなあ。仲正さんが心配するほど本田さんは「わかってなべ」じゃないと思う。評価?しすぎかなw


 ちなみにむしろ最終兵器華麗にスルーの副作用が思わぬところ=ぼくwや稲葉さんに発生して、言葉の正しい意味でただの感情的な発言に根ざす「敵」(テキとは仲正用語にあわせただけで、ぼくはフマタン*1ネタと心の中で呼んでいた。ちなみに稲葉さんとぼくの場合はテキは異なります*2)を生み出したことは皆さんもおわかりでしょう? なかなか深くて勉強になるよ、ブログの世界w


 というわけでたった2ページだけでもこんなに突っ込める面白いネタになる仲正さんの本は、ご本人には何ももらってませんがw 超おススメ

*1:この呼称はE田さんの責任においてなされたので私は品質保証も責任もとらないがwhttp://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20061019#c1161272036

*2:ちなみに本田ブログの閉鎖とぼくのテキ発生の関連はいわば偽の問題連関です、これについてはsvnseedsさんのコメントが的確な整理だと思いますhttp://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20061014#c1161357133。また稲葉さんのテキ問題もまったく事実を欠いたいいがかりもいいところで、あたかも個人の行動をすべて特定の陰謀に基づくものという先入観でしか解釈しえない場合でしか発生しえない偽のテキ問題設定です。この点についてはbewaadさんがするどいhttp://bewaad.com/20060903.html#p01 ここでbewaadさんが的確に書いてるし、svnseedsさんの当該エントリーの最終発言にもあるような対応がこの種の感情的な個別の反応へへは最適に近いと思いますよ こんな注加えるのもまあなんですけども