ニート利権のメモ その3


http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20060914#p1
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20060918#p2

のメモ書きの続き。

 で、本田さんたちが「ニート利権」で具体的にあげてきたのは、「若者自立支援塾」である。2005年末で全国のNPO法人20箇所が選定され、そこに政府から補助金がおちてきている、と本田さんたちは指摘しています。本田さんたちは肥大化した官製「ニート」の中には「非求職型ニート」という人たちが含まれているのに、「若者自立支援塾」が対象とする「ひきこもり」の人たちに「勤労観の醸成」を図るような政策を、「ニート」対策として割り当てるのは不適切であると主張しています。官製「ニート」は「非希望型」の倍以上ですから、官製「ニート」対策を目指せばそれだけ補助金の額は水増しされる、ということを本田さんたちはいいたいのでしょう。また「ひきこもり」の人たちと「ニート」を同一視することにも本田さんたちは批判的でして、その観点からも政策を割り当てるべきだ、という発想だと思われます。


 ところで本田さんたちは、若者の就職の代替・補完的なパスとして、彼らはジョブ・カフェ事業に注目しています。例えば東京のジョブ・カフェはここです。また設置状況はここ。設置状況をみればわかりますが厚生労働省経済産業省がタッグを組んでいることが明示されています。これは2005年の「若者自立・挑戦プラン」に基づく政策というわけです。ジョブ・カフェには就職意識を養うことや、またハローワークの機能を併設することも可能になっていますね。2006年度のジョブカフェ関連やそのほかこの「プラン」まわりの予算総額は760億円あまりです。まだ全部のジョブ・カフェのHPをみているわけではないが、上記の東京のジョブ・カフェでは明確な「ニート」支援は行われていないようだ。もちろんカウンセリングは受け付けるであろう(他の民間サイトからニート相談対応でこのジョブ・カフェにリンクがはられている)。とりあえず本田さんたちの問題意識では、このジョブカフェ事業を官製「ニート」対策とは別物であり、あくまでも「学校経由の就職」の将来的な代替を狙っているようだ。これはこれで不可思議な発想でさえある。ここで本田さんたちの本でいわれている「学校」は大学(院)、高校、専門学校、中学などを含む広範なものである。本田さんたちの問題提起では、「けれども、新しいモデルにおいては、学校は教育機能ーー当然ながら職業的な意義を教育機能を含みますーーにほぼ特化してもらって、個々人の仕事への移行を主に支援するのは学校外部の別の機関とする必要があります」(86頁)としている。


その学校外部の機関として本田さんたちはジョブカフェに多大な期待をかけているように思えるが、なぜ政府関係機関がその手助けを担うのだろうか? 新卒者の就職の受け皿としてこのような機関の発展が求められるのは望ましいのだろうか? 本田さんたちは「学校経由の就職」では彼等の認識する労働市場の構造的変化に対応できる就職体制がとれない=別な公的機関の助けが必要、という認識なのだろう。しかし、仮に労働市場の構造的変化が現状で生じているとしても(もちろん私は本田さんたちとは違い構造的変化が、労働需要不足を招き、それが主因で若年労働者の地位を不安定化しているとは考えていない)、なぜその構造変化に適応した職業紹介を公的機関ができるのだろうか?(情報優位の不明)。


 しかも現状でのジョブカフェ事業の成績はあまりにも不十分(分業の利益の不分明)であり、例えば群馬ではどういう基準からか不明だが、来所者47000人超に対して就職者は3000人超という「業績」を掲げているが、これでいくと就職率は6%ほどであり、例えば大学からの就職率90%超には及ぶべくもない。これを民間・学校経由なみにもっていくためには多くの人的・金銭的な資源がジョブカフェ事業(それと付帯して増大しそうなハローワーク事業)に投入されなくてはいけない、というのが本田さんたちの主張だと思われる。

 だがいったいなんのために? 問題は振り出しに戻って、労働市場の若者の求職の「困難」が構造的なものであり、その構造的な問題は公的介入でしか解けない、という本田さんたちの基本認識の話に戻る。


 私は本田さんたちとは違い、そのような労働市場の構造的な需要不足は存在しないと考えるので、ジョブカフェ事業が「学校経由の就職」の代替的パスにしていくメリットと必要性を現状では理解するのが難しい。むしろ「ニート利権」の構造と同じで、ここでも「若者の就職支援」を名目にジョブカフェ関連事業に多大な予算がつぎ込まれていくことを懸念したい(実際に予算総額は「ニート」対策よりはるかに大きい)。これは「ニート利権」と区別して「若者食い物利権」ではないだろうか。


 さて「ニート利権」の象徴としてしばしば取り上げられるのが京都の「私のしごと館」である。年間20億円の赤字を「垂れ流す」こと、提供されるサービスがほとんど就職に直結していない(りかちゃん人形製作など萌えこころをくすぐる仕掛けは良 違 ))ことなどが先に紹介した窪田氏のルポや猪瀬直樹氏の「ニュースの考古学」でも指摘されている。しかしこれは不良資産処理の問題に行き着くだけであろう。


 ここまでのメモ書きで驚いたことは、「ニート利権」といわれるものが額としても政策としてもまだ小規模だということだ。むしろ若者就職支援事業の予算額の方が巨額であり、仮に本田さんたちの路線に基づけば「ニート利権」よりももっと巨額な予算の投入が今後行われかない印象をもったことだ。

 そして想いだしてほしいのだが、この種の若者就職支援事業の拡大理由やその構図が、このブログでの「ニート利権メモその1」でとりあげた雇用・能力開発機構問題とまったくシンメトリーにしか思えないのだ。


 この種のこーぞ的問題は私も決して得意(こんな言葉をつかうのも変だがw)ではないのでみなさんからのご教示を待ちたいのだバカボンド