FOMCがFFレートの据え置きを決める前後から米経済論壇(特にネット系論壇)は、アメリカ経済の先行きをめぐってほぼ真っ二つで両極端な意見対立が起きているのは皆さんもご承知かと思います。FOMCが5.25%にFFレートの現状維持を決めた背景には、すでに経済成長が小休止したということと、他方でインフレ圧力が弱まったという評価があるようです。
もっともバーナンキ議長がうっかりパーティの席で漏らして以来何かと話題になります現状の市場参加者がバーナンキ議長の考えが読めない(議長発言からの情報量が多すぎて理解できない、ともいえます)というコンフリクトが長く続いていたのですが、基本的に今回の「声明」でも同じようにインフレリスクが再炎したり、また景気悪化のシグナルによっては両極端な対応おがとられる可能性があることを明記しています。その意味ではこれは状況による=目前のリスクに対応する、というバーナンキルールとでもいうべきものが表れているだけで、先代のグリーンスパン氏のようにデルフィの神託的な解釈の余地を与えていない文字通りそのまんまにうけとる必要があるのでしょう。今回の利上げストップが今後も継続されるかどうかは予断をもつべきではない、というのがFOMCの「声明」のそのまんまの理解ではないでしょうか(いいかたかえるとバーナンキ議長がタカ派かハト派かという区別は意味をもっていない)。
それと経済状況に応じて目前のリスクに適応した政策を採用する、というのは別におかしなことはないわけでして、市場参加者がそのような対応が書かれたFOMCの「声明」を理解できず混乱してしまうのは非常に興味深いことでして、ある意味グリーンスパンの負の遺産なんでしょう。
ところで冒頭でも書いたようにいま米経済論壇は、米経済の見通しについて「不況懸念派」vs「フェアリーテール派」という形で論壇がほぼ真っ二つに割れてます。前者の代表はクルーグマン、デロング、ルビニ(Nouriel Roubini 日本語表記これでいいかしら?)、トマ(Mark Toma)、フェルドシュタインら錚々たる面子です。他方でルビ二から「フェアリーテール」(御伽噺)と揶揄された方々は、その急先鋒と目されるバーナンキ議長、そしてハミルトン(James Hamilton)ぐらいなようです。論壇的には圧倒的に「不況懸念派」が圧しています。
で、各論者とも面白い意見をもっているのですが、一番シンプルなのが「経済系ブログマスター」マンキュー先生の単純試算ですね。
http://gregmankiw.blogspot.com/2006/06/what-would-alan-do.html
この試算は「もしグリーンスパンならばこうするぜ」という仮定のもとにw 以下の数式
Federal funds rate = 8.5 + 1.4 (Core inflation - Unemployment).
をもとにグリーンスパン的FFレートを算出するのです。記事にありますように6月末段階では現状よりも高めの数字である5.42%でした。直近の失業率はマンキューの利用した数字より悪化していますので上記の数字よりもグリーンスパンFFレートは低下している可能性が大きいです。
マンキュー式でいえば失業率の一層の悪化があったわけですからコアCPIがFOMCの現状の認識のように上昇リスクが深刻でないならば今回のFFレートの据え置きはマンキューからみれば支持できるのではないでしょうか。そしてこの式の含意からいえば、マンキューのアメリカ経済の先行きについての見解は懸念派よりも御伽噺派に近いのかもしれません。もっとも議論の焦点は住宅市場「バブル」論争なのですからマンキュー式だけではフォローできない論点があるのは確かなようです。
このマンキューの式には以下の反論などもあるようですし、マンキューからの反論もあるようです。まだ全部フォローしてません。この記事はリンク先など含めて改訂・補充予定です。クルーグマンたちの所論も簡単に紹介予定。
http://politicalcalculations.blogspot.com/2006/07/mapping-mankiws-federal-funds-rate.html
http://www.crossingwallstreet.com/archives/2006/08/my_problem_with.html
http://gregmankiw.blogspot.com/2006/08/does-fed-need-to-look-ahead.html