中野晴行『謎のマンガ家・酒井七馬伝』


 当ブログにご本人から予告*1を書いていただきました中野晴行さんの待望の新作『謎のマンガ家・酒井七馬伝』がついに発売されました。ここ数日、アマゾンをチェックしまくり早々にゲットしていま半分まで読みましたが、(mixi日記のITOKさん経由で知ったのですが)宮本大人氏がブログで販売促進?国民運動*2を展開されているので一刻も早く、この日本のマンガ研究史に永遠に残る(と門外漢の僕がいうのもなんですがw)名作をご紹介したいと思い読書を中断してここに書きます。酒井七馬氏は事実上の日本のストーリーマンガの原点(具体的には手塚治虫との共著『新寶島』)に決定的な足跡を残した人物で、簡単にいうと現在のマンガ文化の始祖です。しかしこの「始祖」の詳細はほとんど整理されず謎に包まれてました。つまり始原殺しの状況だったわけです。それを中野さんが実証的に関係者への調査などを重ねて書かれたのがこの本です。マンガ好きならば必読でしょう。


謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

*1:http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20060528のコメント欄参照のこと

*2:26日午後8時半で3000位ぐらいなのでこの運動は成功しましたw 宮本氏のブログより「そんなわけで、マンガ論にご興味をお持ちのブロガーのみなさん、ぜひこの本を紹介しまくって中野さんの目標という5000位以内に入れようではありませんか。大丈夫、「手塚治虫=ストーリーマンガの起源」のマイナス100倍くらいの読む価値はあります。「日本初の本格的漫画史研究」とか「日本初の本格的漫画家評伝」とか銘打つ誇大広告もありません。今どき珍しい、この日本的美徳の持ち主の画期的著作を、大いに盛り上げていきましょう。

サマーズの警告:日本の失われた10年を中国と米国は教訓にすべき

Economist's View経由

http://www.ft.com/cms/s/5da8883c-c4e3-11db-b110-000b5df10621.html


 フィナンシャル・タイムズネタ。こちらはラリー・サマーズの正論といえるもの。米国からの元切り上げや対米黒字削減などの政治的要求に対して、80年代から90年代はじめにかけての日本と米国とのルーブル合意貿易摩擦問題などから帰結したバブル発生その後のバブル崩壊などの一連の経験から、サマーズはその言葉を用いていないが事実上の「円高シンドローム」を、中国と米国の政策当局は教訓にすべきだ、と書いています。つまり強硬な重商主義的な対中要求へのけん制ですね。これは中国が日本的なデフレに陥らないためにも必要でしょう。

 この「円高シンドローム」(上記のサマーズの発言に合うのはこの理論の提唱者ロナルド・マッキノンと大野健一『ドルと円』)については、『円の足枷』の著者安達誠司さんとの共著『平成大停滞と昭和恐慌』(NHKブックス)に書いてありますが、以下はそこから引用しておきます。


 以下はマッキノン・大野健一『ドルと円』によっています。

<(一) 日本の貿易収支黒字が拡大し始めると、米国サイドの保護主義圧力が高まると共に、米政府高官の円高容認が頻繁に聞かれるようになる。
(二) 日本の金融政策が円高と整合的な国内ファンダメンタルズを作り出すような「引き締め気味」の政策スタンスへと変化する(通貨当局による円高容認スタンスも含まれる)。
(三) 日本の物価が米国の物価に比べ下落し、デフレ的な傾向が強まる。
(四) デフレ傾向を反映して長期的な円高予想が金融市場で支配的になる(循環的に円安局面を迎えることがあるものの、ある水準を越えると反転し、中長期的には円高トレンドを変えることはない)。>

ドルと円―日米通商摩擦と為替レートの政治経済学

ドルと円―日米通商摩擦と為替レートの政治経済学


 中国のデフレの可能性についてのマッキノンらの見解はこのサマーズの見方と基本的に一致しています。邦文では以下の本に収録されている論文が役立つでしょう。

人民元切り上げ論争―中・日・米の利害と主張 (経済政策レビュー)

人民元切り上げ論争―中・日・米の利害と主張 (経済政策レビュー)


 日本の現状については共著でもふれてますが、さらにそれを格段にすすめた今回の安達さんの『円の足枷』がぜひ参照されるべきです。

 二・二六事件と“改革病”

 上記の表題で18日配信されたソフトバンククリエィティブのメールマガジンに寄稿しました。これも18日に書いて間違って消失したものの増強復元版です。そのうち下のバックナンバーでも読めると思います。


http://www.sbcr.jp/bisista/mail/

 内容は最近の二.二六事件研究の諸業績を冒頭で紹介しています。記事から一部抜粋しますが

<しかし現在では、研究者・マスコミ関係者の地道な実証研究により、二・二六
事件の実態の多くが明らかになってきている。まず歴史学者伊藤隆・北博昭
の裁判記録の発掘とその公表が特記されるべきであろう(『新訂 二・二六事
件 判決と証拠』朝日新聞社)。北はさらにこの記録を元にして事件の全貌に
ついての詳細なパノラマを描いてもいる(『二・二六事件全検証』朝日選書)。

また、いまから30年近い前にNHKで全国放映された二・二六事件時の軍部に
よる盗聴の録音盤をめぐる番組のその後の展開を追った中田整一の『盗聴二・
二六事件』(文藝春秋)は、伊藤・北らと同様に西田や北が“通説”のように
クーデターの黒幕でもなんでもないことを明らかにしていて興味深い。また
私自身も寄稿した『二・二六事件とは何だったのか』(藤原書店)には、事件
当時の内外の報道や知識人たちの反応や、また事件の現代的意義を明らかにし
た多くの論説を収録していて有意義である。>

盗聴 二・二六事件

盗聴 二・二六事件


 私は拙著『経済政策を歴史に学ぶ』と共著『二・二六事件とは何だったのか』で主に経済問題からこの二・二六事件に触れています。ご参照いただければ幸いです。

二・二六事件とは何だったのか―同時代の視点と現代からの視点

二・二六事件とは何だったのか―同時代の視点と現代からの視点

 『フィナンシャル・タイムズ』日本銀行政策関連社説(邦訳版)


 finalventさん経由

http://news.goo.ne.jp/article/ft/business/ft-20070225-01.html


 まるで自分が書いたみたいな錯覚にさえ陥る(笑い)記事ですね。このブログでもとりあげた論点であるいわゆる「リーク問題」に言及した今回のケースでは最初のメディアです。やはり外国メディアでしかこれはとりあげないでしょうね。


< 残念なことに、日銀の福井俊彦総裁が追加利上げを提案したという情報が、会合開催中にリークされ、報道されてしまった。日銀の政策決定プロセスは極秘のはずだが、このところ数カ月にわたり、こうしたリークが相次いでいる。このような規律のゆるみに加えて、日銀の公式発表が示す方向感は頼りない。おかげで日銀の政策決定はしっかりしたまとまりのないものに見えてしまい、市場の不安感が高まる。>


 また金融政策なのに構造改革を目的にしているという倒錯については言及してはいませんが、これは単にそんなものは目的とすらならないただの恣意的な言い訳ですから以下の記述で十分ともいえましょうか。

< 結局のところ日銀は、自分たちが「正常」と考える水準まで金利をできるだけ早く戻さなくてはならないと、断固たる決意を固めている——今回の利上げで、そういう印象を改めて抱いた。しかしながら、原油価格を差し引いた物価上昇率がマイナスであり続ける以上(ほかの先進国経済と同様)、どんな機会をとらえてでも何としても緊縮的な金融政策を実施しようとする姿勢を支える理由付けは、説得力に乏しい。>(赤字は田中)。


 要するに「上げるために上げた」わけです。こんな単純な子どもの話めいた理屈が一国の最高権力のひとつによって弄されているわけです。そして政治家や一部の批判勢力がその恣意性を批判すれば、「日本銀行の独立性を損ねる」と総出で批判をするわけです。


 こういう態度って、戦前の日本の軍隊への批判を「統帥権に口出しするのはなんたることか!」とベタで切って捨てるのと同じことです。自分たちの政策評価への批判をなんらかの超越的な領域から批判することで官僚的な利益を掠めて、どんどん泥沼に入り込んでいく。それを応援する国内の大マスコミの支援と、まったく戦前と変わりませんね。


 もっとも同誌の記事が海外経済誌の主要論調ではないのも要注意点です。『エコノミスト』誌などは日本銀行の政策に理解を示しているようにも思えます。その点は「円キャリートレード」論の影響かも。