Comic Nose

かわぐちかいじ『空母いぶき』1巻&2巻

日本の戦後発の空母いぶきを中心にした自衛隊と尖閣諸島をめぐっての中国との軍事衝突がテーマ。非常にタイムリーな話題であり、ついつられて購入してしまった。フィクションとはいえ、「専守防衛」の意味を事象化してみせるとなかなか迫真性がある。かわぐ…

ブライアン・K・ボーン&フィオナ・ステイブルズ『サーガ2』

頂戴しました。ありがとうございます。前作からさらにテーマがはっきりしてきたのは、異なる世界観、異なる種族との争いを調停するものとしての「愛」と「共感」それぞれの可能性でしょう。 「愛」はコミック世界ではよくある展開要素ですが、他者への立場の…

真鍋昌平「アガペー」

『ヤングマガジン』に掲載された真鍋昌平氏の「アガペー」。BELLING少女ハートをモデルにしたアイドルグループ(特にその一人の少女)とそのヲタク三人の心象風景を中心にした物語。 ドルヲタの美学(アイドルとの絶対的距離感の重視など)と「いま」現在を…

アレハンドロ・ホドロフスキー&メビウス『アラン・マンジェル氏のスキゾな冒険』

現代の新約聖書前日冒険譚みたいな話。分裂症の大学教授を狂言回しに、現代の神話を構築していく。とはいえ全体的に軽い仕上がりで読みやすい。アラン・マンジェル氏のスキゾな冒険作者: アレハンドロ・ホドロフスキー,メビウス,原正人出版社/メーカー: パイ…

ブライアン・K・ボーン&フィオナ・ステイブルズ『サーガ1』

頂戴しました、ありがとうございます。アイズナー賞などを連続して受賞した話題のコミックの登場です。翻訳は椎名ゆかりさん。『ロミオとジュリエット』が死なないで子供まで作って大脱走、という感じでしょうか。主人公のふたりは対立する星人、その生まれ…

沙村広明『春風のスネグラチカ』

ここ数年読んだマンガのなかで最も悲惨な作品『ブラッドハーレの馬車』を一瞬想起させる歴史ロマンです。今年読んだマンガのなかで最もドキドキかつ、自分のなかの嗜虐趣味とご対面するかのごとき「発見」も重なり、とてもいい作品です。春風のスネグラチカ …

松本大洋+ニコラ・ド・クレシー(玄光社MooK)

頂戴しました。ありがとうございます。巨匠ふたりのイラスト集。すばらしい作品が多く眺めてるだけで時間がみるみる経過。シンポジウム、往復書簡も研究には貴重な資料。しかし贅沢な一冊。松本大洋+ニコラ・ド・クレシー (玄光社MOOK)作者: 松本大洋,ニコラ…

『かわいい闇』(マリー・ポムピュイ&ファビアン・ヴェルマン (著)ケラスコエット (イラスト) 、原正人訳)

なかなかブラックで、またかわいいストーリー。ホラー版『借りぐらしのアリエッティ』か? 笑。かわいい闇作者: マリーポムピュイ,ファビアンヴェルマン,ケラスコエット,Marie Pommepuy,Fabien Vehlmann,Kerasco¨et,原正人出版社/メーカー: 河出書房新社発売…

スティーブン・グラント (著),マット・サントルコ (イラスト) 堺三保 (翻訳)『2ガンズ』

なかなか面白い登場人物みんな悪人系のハードボイルド。2ガンズ (ShoPro Books)作者: スティーブン・グラント,マット・サントルコ,堺三保出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション発売日: 2013/10/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る

フランク・ミラー『シン・シティ1』(堺 三保訳)

やはり前半の『ハード・グッドバイ』は傑作。後半のはかなり落ちる。善悪二元論では語れないハードボイルド仕様だが、また独自のゴチック的な様式美というか画面構成が面白い。シン・シティ1作者: フランク・ミラー,堺三保出版社/メーカー: 小学館集英社プロ…

マーク・ミラー (著), ジョン・ロミータ・Jr. (イラスト), 光岡三ツ子 (翻訳) 『キック・アス2』&『ヒット・ガール』

『キック・アス』の映画版は1も2もともに日本では好意的に迎えられた。原作になる『キック・アス』も映画とは一味違うバイオレンスさを全開にした作品で面白い内容だった。 今回はその続編の『ヒット・ガール』『キック・アス2』。この順番で読むことを推…

竜田一人『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記(1)』

多くの人間は「当事者」になれない。しかし「当事者」あるいは直接の「目撃者」にならないでは、正確な議論ができないときもある。本書はマンガの潜在力を十分に活用して、僕が見たかったことを「当事者」の視線から見ることを可能にしてくれている。本当に…

5月19日月曜日午後7時トークイベント「マスダさん、さようならw−経済学とコミック世界との出会いー」出演者:田中秀臣、三井智映子、遠藤恭葉、矢野利裕、舞川れみ

表題のイベントを行います。「マスダさん」って誰? というあなたはリフレ派(田中限定)のことをまだ何も知らないw。若い絵心、マンガ心あるお三人を迎え、最新のコミック世界と経済学を語ります!予約はこちらからhttp://velvetsun.jp/next.html#5_19 料…

フォビオ・ムーン&ガブリエル・バー『デイトリッパー』

一年に何回か出会うことができる深みのある良質のマンガ(グラフィックノベル、BDなど)がある。本書はその数少ない出会いをもたらしてくれた。ネタバレにもなるので中味について書くのは遠慮しておくが、人生の断片を何層にも描き、そこから「人生の偉大な…

バスティアン・ヴィヴェス 『ポリーナ』

才能に恵まれた美しいバレリーナである主人公とその厳格な師との20年以上にわたる日々を描いた秀作。いままでのヴィヴェスの作品の中では最も長い時間軸を扱い分量も多い。はじめて動的な意味での「人生」を表現した作品だといっていいだろう。古典を読むよ…

三田紀房『インベスターZ』1巻&2巻

久しぶりに読んだ本格的経済マンガなんだけど、かなり説教臭い。中学生が主人公なのでどうしても物語にヤバさが足りない。荒唐無稽な設定が前記の「説教」で歯止めがかかってマンガ化してない感じ。これからの大化けにぜひ期待したい。ドラゴン桜はわりと好…

ディビッド・スモール『スティッチ』

編集の方から頂戴する。どうもありがとうございます。この作品は掛け値なしの名作です。数年前に原書で読んでて感動したのでブログにも書いたことがあります。以下はそのときの文章のコピペ。http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20100112#p3Stitches(編…

ミロ・マナラ『ガリバリアーナ』

『ガリヴァ旅行記』の主人公が美女だったら? このたったひとつの改変とエロチックな画の力だけでかなり読ませる快作である。絵がともかく綺麗なのがいい。ガリバリアーナ作者: ミロ・マナラ,鵜野孝紀出版社/メーカー: パイインターナショナル発売日: 2013/1…

はだしのゲン』とマンガ規制の経済学

『電気と工事』2013年10月号掲載の元原稿ーー 松江市教育委員会が、マンガ『はだしのゲン』(中沢啓治作)の学校図書での閲覧制限(同書の後半部分)にしたことが、国内で大きな話題をよんだ。今回はマンガと規制の問題について簡単に考えてみたい。 『はだ…

アン・ディアス・カナレス(作)フアンホ・ガルニド(画)『ブラックサッド 赤い魂』(大西愛子訳)

『ユーロマンガ』に連載されていたものが特典を加えて単行本になって登場。再読したが、この動物顔の世界はやはり面白い。舞台が第二次世界大戦後の米国というのも冷戦的な状況をうまく利用していて、物語に厚みをもたせることに成功している。 この『ブラッ…

フレデリック・ペータース『青い薬』(原正人訳)

HIVやそもそも「病」に偏見や心理的にとらわれている人(僕も含むだろう)は必読のフランスコミック(バンドデシネ)だ。 大野更紗さんの推薦文も脳髄を撃つ。感動した、素晴らしい作品だ!大野更紗さんの推薦文より「HIVに感染した女性に恋した、ある男性の…

東京都青少年条例改正案を考える(再録:初出「シノドスメールマガジン」2010年12月1日)

シノドスメールマガジンに掲載されたものを一部修正して掲載。 興味深い動きがあった 。言うまでもなく、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の改正案をめぐる話だ。この問題についての自分の考えを簡単に述べておくのも意義のあることだと思う。 この…

アレハンドロ・ホドロフスキー&メビウス『天使の爪』

まさかの翻訳の登場。ホドロフスキーとメビウスの性的な妄想大全とでもいうべき一書なのか、あるいはそれ以上の何か倫理的なメッセージなのか? それはこの日本のいまの出版事情の中では異例ともいえる大判さらに決して一般的とはいえない中味のアンサンブル…

宮崎駿とメビウス

現実、作品世界の現実、選択アーキテクチャーとしてのアニメ論、『耳をすませば』とマクドナルドの椅子の類似など。いまの僕のアニメ論のすべてを濃縮してもいる。 宮崎駿とメビウスを比較して面白いなと思ったのは、宮崎駿は「人間のいない自然」を優位にも…

メビウス&アレハンドロ・ホドロフスキー『猫の目』

メビウスとホドロフスキーの傑作、フランスマンガ(バンドデシネ)の翻訳の登場です。原正人さんのいつものわかりやすい翻訳と周到な解説が光ます。宮崎駿との関係でも重要なメビウス。これからも『天使の爪』など翻訳が続きでしょう。ぜひ読んでほしい一品…

ジェフ・ジョーンズ(作)&ジム・リー(画)『ジャスティス・リーグ 魔性の旅路』

これは面白い。正義の集団ジャスティス・リーグのメンバーの孤独と「仲間」の連帯への懐疑を中心に、さまざまな掛け合いやドラマを織り交ぜて進行していく。それとメンバーの絵が若くて魅力的なのもいい。日本人の感性にむいてる感じかな? 宣伝の文句にもあ…

マーク・ミラー(作)&J.G.ジョーンズ(画)『ウォンテッド』

映画版の『ウォンテッド』とはまったく違う味わい。かなりな「悪」の誕生を描く物語。結構好きかな。ウォンテッド (ShoPro Books)作者: マーク・ミラー,J・G・ジョーンズ,中沢俊介出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション発売日: 2013/06/26メディア: …

マルク=アントワーヌ・マチュー『神様降臨』

編集の田中さんから頂戴する。どうもありがとうございます、昨日、古永さんの訳になる『ラ・ドゥース』を読んだばかりで、そのときこれを購入しようと思った矢先でした。なんとタイミングのいい(笑)。 マチューのバンドデシネは短い絵の中に複雑で多様な解…

フランソワ・スクイテン『ラ・ドゥース12』

頂戴した作品です。ありがとうございます。『闇の国々』の作者ペアのひとりスクイテンの緑の弾丸蒸気機関車をめぐる寓話。鉄への愛、自然と人工の対比と浸透、そして人生の意義の継承を描いた秀作だ。素晴しい。ラ・ドゥース (ShoPro Books)作者: フランソワ…

ロドルフ・テプフェール『観相学試論』

キャラクター論の古典といっていい著作の翻訳。以前、大学の紀要に掲載されていたものの全面改訳。本書の訳語での「永続的記号」と「非永続的記号」が、連続するコマ(つまりマンガの祖形)でのキャラクター認知の基礎をなすものとなっている。 しかし日本で…