ネットカフェ難民調査(東京都2018年1月公表)メモ

 「ネットカフェ難民」とまま称されるインターネットカフェなどをオールナイトで利用している住居喪失者、そしてそのうちの不安定就労者について、東京都が調査を公表したニュースが気になるのでメモ。

 ニュースはこちら
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26256220Z20C18A1CC0000/

共同通信の取材で上記の都の担当者の発言

「都の担当者は「今の30代はリーマン・ショック後の派遣切りや雇い止めの影響が大きいと推定される。50代が多いのは、仕事を辞めると再就職が困難だからではないか」としている」

 リーマンショック後の派遣切りや雇い止めが10年近く経過していまだに影響をしているとの分析である。他は再雇用が難しいとのこと。

 都の調査自体のリンクはこちら
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/01/26/14.html

 10年ほど前にやはりネットカフェ難民がメディアで大きく注目を浴びたときに、東京都が支援の枠組みを構築していてTOKYOチャレンジネットがある。

 https://www.tokyo-challenge.net/02_challenge.html

 今回の都の調査をみるとTOKYOチャレンジネットの認知度は極端に低い。

 それとこれも調査をみて思ったが「ネットカフェ難民」の方々が特にそれらの機関を必要としていない割合が30%を超えているのが気になる。ネットカフェの利便性が、定住よりも上回っているということなのだろうか?

 いろいろ考えさせられる調査である。

TBSラジオ「生島ヒロシのおはよう一直線」:世界同時株安について電話でコメント

 ちょうどコメントしていた日本時間の現時点午前5時30分前あたりから、大きくダウ平均反発してその後、前日比2.3%超の大幅上昇で終わりました。釣られて日経先物も大幅反発してました。その中での電話での出演になりました。

 話したことは、米国経済の雇用などの実体経済は堅調、リーマンショックのときのような投資銀行などの金融システムの不安定性がない、そのため一時的なかく乱の可能性が強い。トランプ政権の財政政策は一年で何もしてなかったが、減税政策、インフラ投資計画などの実行がこれから顕在化すれば明るい材料。さらにイエレン体制からパウエル新体制になったFRBが金融引き締めスタンスに代わるのではないかという市場の不安は今回の株化暴落の引き金かもしれない。

 日本はデフレ脱却を完全に果たしてないが、日銀の正副総裁人事で金融緩和継続のメッセージを出すことが重要。マーケット的には黒田総裁の続投を喜ぶかもしれないが、海外は緩和に消極的とみなす勢力の方が大きいかもしれない。どんな人がいいのか? という生島さんの質問には、本田内閣府参与(スイス大使)を推した。実際にはすでに誰かが内定しているはずで、今月にも国会に人選が提起されるはず。あとは冗談ぽく、安倍首相が過去に発言したようにリーマンショック級のものが起きれば消費増税は見直すとしてたので、昨日それが株価下落では起きたので今日にも延期か凍結を表明すべきとw。まじめには財政のより積極的なスタンス変更が必要と話しました。

 

文化放送「おはよう寺ちゃん活動中」1月30日火曜コメンテーター出演:株価暴落、北朝鮮仮想通貨泥棒?、エンゲル係数論争、働き方改革の批判的検討など

 本日の放送では、特にダウ平均、日経平均の暴落をうけてその背景を考えました。基本は今後の推移をみないとなんともいえないということですが、トランプ政権のこの一年の財政政策、イエレン体制からパウエル新体制に代わった金融政策の評価を中心にコメントしました。実体経済が堅調なので不合理的な株価(要するに意味不明w)の変動だとコメントをしてます。金融政策がイエレン的な正常化からより金融引き締め的なスタンスに代わるのではないかという懸念が市場にあるとしたらパウエル新議長がそれを打ち消すコメントをするだろうとも話しました。

 その他の話題は以下です。
陸自へり墜落 乗員1名死亡
○株価急落 NYダウ一時1500ドル以上下げる
○安倍首相「デフレ脱却でない」
○仮想通貨580億流出 北犯行か
エンゲル係数と景気の関係

 番組は生放送ではradikoで以下で聴けます
http://radiko.jp/#!/live/QRR
今週の放送は放送後一週間以下からタイムフリーで聴けます。
http://radiko.jp/#!/ts/QRR/20180206060000

論説「株価暴落「アベノミクス終了宣言」の妄執」by田中秀臣in iRONNA

 先週末のダウ平均の大幅下げ、それをうけての日経平均の大幅下落をもとに論説を書きました。株価が大きく下げるとすぐに「アベノミクス終了」とか、あるいはトンデモ経済論や陰謀論、そして政治的な詭弁が出てきますが、まさに奇怪な非知性の宴になります 笑。そういう人たちをあぶり出すいいイベントともいえるでしょう。

 http://ironna.jp/article/8858

特集「ふつうに「幸福な会社」」にコメント掲載in『週刊現代』

 子供を入れたいならこの企業が「安心」という観点から5社選んでほしいということでしたが、まあ、日本の旧来型の雇用システムが健在でなおかつ経営が安定的な大企業を選び、そして二社ほどは「働き改革」を試行的に行っている外資系や規模の小さめな企業を選んでみました。

 どうかご一読ください。

裁量労働制の拡大をめぐる経済学メモ

 政府の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」は簡単にいうと二つの構成要素からなっている。一つは残業時間の上限規制の強化、そしてもう一つは裁量労働制の拡大である。

 政府が労働時間に介入することの正当化は、通常の経済学ではかなり例外的なものととらえられる。だが私はこのブログや自分の著作・論文の中でも常に書いてきたように、新古典派的な労働経済学の発想には反対である。通常の新古典派的な労働経済学では労働者と資本家(雇用者)は対等の交渉相手として設定されるのが「標準」である。だが実際には労使の交渉上の地歩は異なり、労働者よりも資本家(雇用者)の方が交渉力は上である。このようないわば「権力」の差異があれば、労働者の働く位置は生存水準ぎりぎりの労働時間(余暇)と報酬の組み合わせに落ち込む可能性がある。このような労働市場観は経済学の歴史の中で常に存在してきたし、また実際の社会政策や労使の交渉の中でも実践的な意味を持ってきた。しかし現時点の経済学者の中ではこのような市場観をもつものは希少である。

 この観点からいえば、政府が残業時間の規制に乗り出す(上記の私たちの立脚する)経済学的根拠がある。他方で新古典派的な労働経済学では通常は見出しがたいだろう(もちろん一工夫すれば介入の根拠は新古典派でも生じるが、そもそもの市場観が異なる)。また裁量労働制の拡大については万歩譲って慎重であるべきである。基本は現状からの緩和方向には反対である。基本的には裁量労働制の範囲を厳しくすると対象者が限られてくるがゆえに相対取引になるだろう、そのときに今書いたような労使の交渉上の地歩が影響すれば、裁量労働制の拡充は労働者にとって厚生の悪化を招くだろう。これについては最後に実証的な論文があるので紹介する。

 裁量労働については、範囲の厳格化や健康条件への配慮を改正要綱では求めているが、大手企業を含めて裁量労働制の悪用が行われている事例がままあり、またそれを監視するコストを政府が十分に払っているわけでもない。

 さてこれが私の基本的な立場なのだが、このエントリーはそれが主目的ではない。自分のための文献メモを作るのが目的。

 以下ではこの裁量労働制などを考えるときに参考になる論説を紹介する。

 ちなみにこのブログで読むことのできる私の立場を書いたものは以下のエントリーである。
 僕がミクロ問題を考えるときのひとつのベースhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20090802#p1

 ところで現在、論点になっている上記「要綱」はそもそも厚労省労働政策審議会の答申である、その会長である樋口美雄氏の立場も、例えばリフレ派でいえば、私や片岡剛士さんや森永卓郎さんに似ている(ただし樋口氏と我々のマクロ経済の考えが同じだという意味ではないし、ミクロ政策的にも個々立場は違うだろう)。理論的な先行者は遠くはアダム・スミスに行きつくが、日本では福田徳三から最近では辻村江太郎氏が理論的に整備した。私や片岡さんのはそれを修正したもので、樋口氏のも同様である。

 樋口美雄「経済学からみた労働時間政策」https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/10020001.html
 山本周平「正規雇用者の労働時間と勤務時間制度の関係 https://www.pdrc.keio.ac.jp/uploads/11e204cd9e329a30e93a0b6df5cfa529.pdf

「そして労働時間関数の推定の結果、先行研究ではあまり考慮されてこなかった家族属性
や内生性を統御した場合でも、「裁量労働・みなし労働時間制」適用者の労働時間は、通常
の勤務時間制度の者に比べて有意に長いことが明らかになった。適用要件が厳しい裁量労
働制は適用者の数が限定されるため、労使の交渉が一対一の相対取引になりやすい。外部
労働市場が未発達のわが国においては、裁量労働制の適用を受けるような高度なスキルを
有する労働者であっても、こうした相対取引の場合、使用者の要請を断ることは容易では
ないだろう。労働時間の自発的選択が可能な裁量労働制の適用者であっても、労働市場
構造的問題によって長時間就業を強いられている可能性が示唆される」

 なおより広い視点からマクロ経済学の範囲まで含めて、田中と片岡さんで何度か対談も行ったのでそのときのエントリーもぜひみておいてほしい。このエントリーにまとめたhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20141002#p1

 

デマ「「エンゲル係数の上昇=景気回復の証拠」と主張する安倍晋三」を流布して経済政策論議を混乱させたい人たち

 なんでも安倍首相が国会でエンゲル係数についての答弁をして、「「エンゲル係数の上昇=景気回復の証拠」と主張する安倍晋三」ということになっているらしい。本当かどうかすでに検証している人たちがいるが、簡単にいうとデマである。

この動画の3分から3分55秒までが該当する部分である。

これを文字起こしした人がいるhttps://togetter.com/li/1195312。ありがたいことです。
そのまま以下にもコピペ。

「またこのエンゲル係数についてでありますが
二人以上の世帯のエンゲル係数は2005年を底に上昇傾向にありますが
これは物価変動のほか食生活や生活スタイルの変化が含まれているものとおもいます
いずれにせよアベノミクスを通じてですね経済の好循環を加速させていきたいと思っておりますし
やはりいちばん大切なことはちゃんと働く場があってみんなが仕事に移るという状況ではないかとわけでありますが
昨日発表されたました有効求人倍率を見ますと1.59でございました
43年と11か月ぶりの高い水準となっておりますし
正規の雇用については1.07となっておりましてこれは統計開始以来最高の数値となっていると承知をしております」

さてエンゲル係数上昇トレンドにあるのは、すでに論説で書いたし、このエンゲル係数だけに注目して安倍政権の下でのほうが貧困化したとか、あるいは政策が失敗したというのは間違えも甚だしいことを書いた。簡単にいうと「貧困化」と「エンゲル係数の上昇」は対応していない。ここが重要。そして日本が安倍政権下で「貧困化」していたのかどうかは各種指標からみれば現状では間違い。

エンゲル係数、29年ぶり高水準が裏付ける「ニッポン貧困化」のウソ (田中秀臣) - オピニオンサイトiRONNA http://ironna.jp/article/6461

さて以上の論説以外に、もしどうしても「エンゲル係数の上昇」だけを阻止したいという人がいるならば、消費減税を勧める。エンゲル係数が政策を評価する望ましい指標だとは上記の論説でも書いたがまったく思わないが、消費減税という「手段」だけには賛同したい 笑。

ただし「「「エンゲル係数の上昇=景気回復の証拠」と主張する安倍晋三」などとデマを飛ばす人にはそのような消費減税を主張する人物はいないようだ。あくまでも安倍政権をデマでもなんでも利用して批判したいだけなんだろう。悪質だな、と思う。

 デマを前提にしてエンゲル係数の上昇をさも政策の失敗を表すものといっている匿名系の人たちにはいささかげんなりする。

 論説の方でも書いたが、デマを利用したり、筋悪の指標を使うのではなく、端的に消費の低迷は安倍政権の消費増税が原因であり(エンゲル係数上昇もそれが原因のひとつだが、エンゲル係数を持ち出して議論すると、消費低迷をストレートに評価することが難しい。なぜなら違う要因=高齢化、ライフスタイルの変化等が混ざるからだ)、その間違いを2019年に採用するなと批判するべきである。また一層の金融緩和政策と財政緊縮の放棄との合わせ技をするべきである。だが、上記の国会で質問している小川議員も含めて野党にはその認識はない。

ちなみに最近のエンゲル係数の分析については以下の各論説も参照されたい。

家計調査結果からみた近年のエンゲル係数の上昇要因について
http://kakeiken.org/journal/jjrhe/113/113_09.pdf
食料への支出の変化を見る
http://www.stat.go.jp/info/today/108.htm
エンゲル係数の上昇を考える
http://www.nli-research.co.jp/files/topics/55609_ext_18_0.pdf