浅田統一郎他のケインジアン動学モデルによるMMT(現代貨幣理論)解釈への感想

土曜は、浅田統一郎さんのMMT的論文の報告をきいて、久しぶりにMMTのお勉強。下に論文はリンク。ケインジアン動学モデルでMMTの要素を解釈するのは個人的にはわかりやすく大変ありがたい貢献だと思う。12個の方程式と12個の変数の体系。この論文のようなモデル化の成果がないと、いったい何がMMTの特徴で、なにが問題点なのかわからない。モデル化は必要ないという変な意見もあるがとんでもないことだと思う。

 

浅田MMT的モデルの結論を先に書くと、従来のケインジアン動学モデルでいえることをわざわざMMTというレッテルで売り出しているということに尽きると思う。つまりMMTには新規性がない、あるのは不明瞭な発言と既存のすべての経済学との差異の強調、さらには政治的ふるまい、ということになると思う。

浅田さんたちの論文は以下

A Mathematical Analysis of a MMT Type Coordinated Fiscal and Monetary Stabilization Policy in a Dynamic Keynesian Model

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0167268123003463

 

で、会場で質問したけれども、このモデルのうち、(6)式の期待修正されたフィリップス曲線がやはり論点ではないかと思う。野口旭さんの『反緊縮の経済学』でのMMT批判や、またThomas Palley氏らの批判は、MMTには総供給曲線がない、というものだと理解している。それは(6)の欠如を意味し、さらに(8)のような導出を不可能にする。簡単にいうと物価水準が不定。12個の変数と11個の方程式になってしまうからだ。

 

他方で、MMTの主張者自体も(6)式のような物価水準と失業率のトレードオフや自然失業率を否定している。かなり強く自らの立場と(6)式の否定を連動させている。一例としてレイ『MMT』翻訳39頁をみれば明瞭である。となるとやはりMMT側も(6)式がないので、上記の批判者たちと同じように浅田体系では11個の方程式と12個の変数で物価水準が未定になるのか。ところがそれは違う。MMTにとっては(6)とは異なる総供給側の説明がある。それがJGP(雇用保証プログラム)だ。インフレと雇用はトレードオフにはならず、特に動学的な枠組みでは、雇用はつねにこのJGPを採用することで「完全雇用」として扱ってもいいだろう。つまり浅田論文でいうとeは常に完全雇用水準e*にある。とすると11個の変数と11個の方程式で帳尻はあう。他の方程式も修正するのはもちろんである。特に政府の国債発行ルールを示す(11)式は、第1項はJGPを保証する賃金総額(外生変数)で与えた方がいいだろう。状態変数空間を示す方程式群も修正が必要だが、むしろ変数が減るのでやりやすいかもしれない。

 

こういうことを書けるのも浅田さんがモデル化をしてくれたからである。とても貴重な貢献である。やはりMMTポスト・ケインジアンから出ているのでその枠組みで考えた方が特徴もおさえやすいなと思った。

 

上記論文の数値計算は、前提となる知識にまだ理解が欠けるので後日あらためてゆっくり検証しておきたい。ちなみにこの論文の元になるものが以下である。こちらはMMTの浅田モデルによる経済政策的含意がわかりやすく解説されているので上記の論文よりもいいだろう。ちなみに一部の方程式でタイポがあるが、それは上記の論文と照らし合わせればわかるはずだ。

Coordinated Fiscal and Monetary Stabilization Policy 
in the Manner of MMT: A Study by Means of 
Dynamic Keynesian Model

https://www.jstage.jst.go.jp/article/revkeystud/2/0/2_148/_pdf/-char/ja