予想物価上昇率とYCC(イールドカーブコントロール)

ネット匿名さんのリフレ批判にはもう見るべきものはない、というのが私見です。例えば「YCC(イールドカーブコントロール)導入の後にむしろ予想物価上昇率は低下した」というのもその種のヘンテコな意見です。もちろんこのYCC導入直後に、ぼくは『ニューズウィーク』日本版へ寄稿して、以下のように書きました。

 

「筆者は今回の日本銀行の政策決定は、大胆な金融緩和にむけての「政策転換」ではないが、いままでの政策を大きく「補強」する手段を日銀が明確にしたことを大きく評価したい」

https://www.newsweekjapan.jp/tanaka/2016/09/post-6.php

 

 このYCC導入時には、これまたネット世論では失望が広がったので、それに反論する意味もこめて「レジームの転換ではないが、リフレの補強なのでそんなに失望するのはおかしい」という意味です。特に当時は世界的な経済不安定化の真っ最中で、回転するナイフをとることはしない日本銀行としては(褒めてません)、その範囲内ではよくやったと評価していました。ただ繰り返しますが、このひとつ前の岩田先生の発言についてのエントリーや上の僕の導入当時の発言にもあるように、レジーム転換が求められるなかでは、このYCCはいずれにせよ、家の建て替えではなく、トイレやお風呂場のリフォーム程度なのです。

 

 さて本題ですが、YCC導入後の予想物価上昇率(予想インフレ率、期待インフレ率などともいう)をみておきましょう。

 

 YCCは2016年9月に導入されてます。まずブレイクイーブンインフレ率を。

 出所:財務省

http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/bei20180322.pdf

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 BEI(10年物)をみてもそれ以前のBEI急落からの低水準以降に比べると、導入以後は明らかに上昇してます。もちろん「補強」ですからインフレ目標2%を実現するには弱いですが。急落だとか減少だとかはまったくいえません。ネット匿名さんはこのBEIを

みるときにはあまりに短期の現象、例えば株価が急落するとその日のBEIも急落するのをみて「インフレ目標だめ!」に類したことを書きがちです。BEI自体がそれほど予想インフレ率のいい指標ではないので、あくまで参考程度にしかも短期、超短期ではなく長めでみることが重要です。

 

よりエレガント?な片岡剛士さん(日銀政策委員)の最近の図表もみておきますが、やはりYCC導入後は「改善」しています。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2018/data/ko180301a2.pdf 

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なお日本銀行インフレ目標の進捗状況やレジーム転換的な発想による評価では、最近、安達誠司さんが論説を書いているので直接今日のテーマには関係しないが、読まれるといいと思います。

gendai.ismedia.jp